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2018年5月31日木曜日

山で自生しているシイタケを採ると罪になるか(大邱高等法院2018年5月11日判決)

 本件は、被告人が他人が所有する山に自生するシイタケ(890グラム相当)を採って帰ろうとしたことが山林資源法違反に当たるとして30万ウォンの罰金を命じられたことを不服とし、控訴したものです。
 被告には、山林資源法は自生する産物を持って帰ることまで処罰の対象にしていないと主張しましたが、裁判所は人為的に栽培しているか自生しているかにかかわらず他人の山から産物をもってかえることは山林資源法第73条第1項の処罰対象になるとしました。
 他人の山から自生しているキノコなどを持ってかえる行為は森林窃盗といい、日本では森林法第197条で3年以下の懲役または30万円以下の罰金と定められています。これは窃盗罪の一種ですが、山で生えている植物などは持って帰りやすいなどの理由で窃盗罪に比べて軽い刑となっています。
 これに対し、韓国では森林窃盗は5年以下の懲役または5000万ウォン以下の罰金となっており、窃盗罪(6年以下の懲役または1000万ウォン以下の罰金)とあまり変わりがなく、結構重い罪になっています。
 本件では被告人は30万ウォンの罰金が重すぎるとも主張しているようですが、山に入れないようにしている冊を乗り越えてシイタケを取っているという点を裁判所は重く見て、罰金の額を決めたようです。
 以下は、判示の一部抜粋です。

2018年5月28日月曜日

私有地を通らせないことが往来妨害罪になるか(仁川地方法院2018年5月10日〕

 本件は私有地を通らせないようにフェンスを設置した行為に対して、往来妨害罪が成立するとして罰金200万ウォンを命じたものです。
 これに対し、弁護人はフェンスを立てた土地は被告人が所有する私有地であり、他に通る道があるのだから往来妨害罪は成立しないと主張しましたが、問題となった土地が明日アルトで舗装された道路であり、長い間周辺の住民が道路として使用していたことを根拠として往来妨害罪の成立を認めました。
 私有地なのに通ると便利だからという理由で近所の人が勝手に通っているということは珍しいことではなく、そのような場合でも通行量が少なければ所有者もとやかく言わないのですが、開発などが進んで住人が増えて通行量が多くなると私有地だからという理由で通行止めにし、近所の人とトラブルになることがあります。
 原則としては土地の所有者は所有権に基づいて勝手に通行できないようにすることができるので、近所の人が慣習的に道路として使っているというだけでは通行止めができないようにすることはできませんが、本件は道路がアスファルトで舗装されているということで何らかの道路として指定されている可能性があり、そうすると私有地だという理由で通行止めにすることはできないと考えられます。
 以下は、判示の一部抜粋です。
 被告人と弁護人は、被告人が鉄筋構造のフェンスを設置した本件土地が個人私有地で、公道に出入りすることができる他の道路が存在するので、これは「陸路」に該当せず、一般交通妨害罪が成立しないという趣旨の主張をしている。刑法第185条の一般交通妨害罪は一般公衆の交通の安全を保護法益とする犯罪で、ここで「陸路」というのは一般公衆の往来に共用されている場所、すなわち特定人に限らず不特定多数人または車馬が自由に通行できる公共性をもつ場所をいい、陸路と認められる以上その敷地の所有関係や通行権利関係または通行人の多少を問わない。検事が提出した証拠を総合すると、被告人が鉄筋構造物のフェンスを設置した土地はたとえ個人の私有地であるとしてもアスファルトで舗装された道路であって、長い間周辺の住民が通行路として利用してきた事実が認められるところ、そうであれば本件土地は「不特定多数人または車馬が自由に通行できる公共性をもった場所」として刑法第185条の「陸路」に該当するというのが妥当である。

2018年5月18日金曜日

緊急措置第9号の罪が違憲無罪となった場合に旧反公法違反で有罪とできるか(大邱地方法院2018年4月25日判決)

 本件は、緊急措置第9号が違憲無効とされたことから、無罪の再審を求めたのに対し、観念的競合関係にある旧反公法違反の罪で有罪とすることができるかが争われた事件です。
 被告人は、酒に酔った状態で警察官に対して韓国政府を批判し、北朝鮮と統一した方がよいという内容の発言をしたのですが、このことが韓国よりも北朝鮮が優れているという北朝鮮を讃える発言に当たるとして、緊急措置第9号違反で有罪とされていました。
 緊急措置とは大統領に与えられた緊急命令権に基づくもので、非常時において大統領の権限で国民の権利を制限することができるものです。緊急措置第9号自体は1979年に解除されていますが、2013年になって初めて緊急措置第9号が違憲無効であると裁判所で判断されました。
 一方、反公法とは1961年に制定された法律で、1980年に国家保安法に統合されて廃止されましたが、共産主義団体への加入や共産主義に便宜供与する行為を禁止する法律です。被告人の発言は、緊急措置第9号に違反すると同時に旧反共法にも違反する行為なので、緊急措置第9号が違憲無効であっても、旧反共法で有罪となる可能性がありました。
 裁判所は、再審とは公訴事実の有無について審理をするもので、緊急措置第9号の違憲無効が再審事由であるとしても、公訴事実が他の刑法犯に当たるのであれば有罪を認定することができるとしました。しかし、検察が起訴した内容では反共法違反に当たるとは言えないとし、有罪の立証がないとして無罪としました。
 以下は、判示の一部抜粋です。

2018年5月9日水曜日

有料道路のゲートを不正に通過した事件(仁川地方法院2018年5月1日判決)

 本件は、有料道路のゲートをハイパス(日本のETCカードに該当)を使わずに不正に通過したことが、便宜施設不正利用罪に当たるとして有罪になった事例です。
 日本でも同じですが、機械を誤作動させて財産上の利益を得る行為は、機械は錯誤に陥ることがないという理由で詐欺罪が成立せず、自動販売機から商品を無料で持っていくなど窃盗罪に当たる場合でなければ刑法犯にはなりませんでした。
 人をだますのも機械を誤作動させるのも同じ犯罪であるという観点から、日本では電子計算機使用詐欺、韓国ではコンピュータ等使用詐欺と便宜施設不正利用という罪が刑法に追加されました。
 日本の場合はコンピュータを誤作動させた場合にのみ刑法が適用されるので、例えば、有料道路のゲートを前の車にくっついて通過した場合などはコンピュータを誤作動させたわけではないので電子計算機使用詐欺に当たりません。韓国ではこのような場合も刑法で処罰できるように便宜施設不正利用という罪も創設しました。
 なお、日本では有料道路のゲートを不正に通過して料金を支払わずに有料道路を通過した場合は道路整備特別措置法第24条第3項後段、第59条により30万以下の罰金となります。
 以下は、判示の一部抜粋です。
 誰であっても不正な方法で対価を支払わずに自動販売機、公衆電話その他有料自動設備を利用して財物または財産上の利益を取得してはならない。
 それにもかかわらず、被告人は2016年5月15日ごろ仁川以下不詳地にある被害者韓国道路公社が管理する有料通行区間でハイパス端末機を設置しない状態で乗用車を運転して料金所を通過する方法で900ウォン相当の財産上の利益を取得したことをはじめとして、別紙犯罪一覧表記載のようにその頃から2017年7月6日までの間に803回にわたって上のような方法で通行料を合計908,440ウォン相当を支払わないことによって同額相当の財産上の利益を取得した。

2018年4月24日火曜日

電子ファイルとその出力物の同一性(大法院2018年2月8日判決)

 本件は、電子ファイルの状態で作成された売上記録を変造して脱税したとされた裁判において、問題となった売上記録を証拠として裁判所に提出する際に紙にプリントアウトして提出しましたが、このプリントアウトされた売上記録の内容と、USBに保存されている電子ファイルの内容が同じものであるかどうかが問題となりました。
 USBに保存されている電子ファイルの内容とプリントアウトされたものが同じ内容でないとすると、裁判所に提出された紙の記録は証拠にならないことになりますが、これらが同じものであるということは検察に証明責任があります。本件では、検察の証明が十分でないとして裁判所に提出された紙の記録に証拠能力がないとし、有罪を認めていた原審に差し戻しを命じました。
 電子ファイルの状態のものを紙にプリントアウトしたときに、そのプリントアウトされたものが電子ファイルの写しなのか、紙にプリントアウトされたものが原本なのかという問題もあり、そもそも電子ファイルとは何なのかという根本的なところから考えなければなりません。もっとも、原本は手書きで写しも手書きしかなかった頃は、原本と写しは明らかに区別することができましたが、原本をワープロで作成して写しをコピー機で作成すると、原本と写しを区別することができません。原本と写しの区別をすること自体が時代に合わなくなっているのかもしれません。
 以下は、判示の一部抜粋です。

2018年4月4日水曜日

宗教上の理由により兵役を拒否できるか(蔚山地方法院2018年3月6日)

 本件は、信仰している宗教の教えに従って兵役につくことを拒否したことについて、兵役法違反に当たらないとして無罪を宣告した事件です。
 韓国は徴兵制があり、兵役法88条第1項の規定により、現役入営通知書を受けた者が正当な理由なく入営日から3日以内に入営しない場合には3年以下の懲役に処されることになります。正当な理由については例示がありませんが、裁判所は、物理的な理由で入営できない場合に限らず、憲法で保障された権利にもとづいて、かつ、兵役法の立法目的を毀損しない範囲で兵役を拒否する場合も含むとしました。
 軍隊に入隊して訓練するということは、戦争のための訓練をすることです。戦争のための訓練とは家族を守るための訓練といえば聞こえはいいですが、家族を守るために敵を殺すための訓練であることに違いはありません。
 人を殺したくない、人を殺してはならないと考え、人を殺すための訓練を拒否することは正当な事由であるとした裁判所の判断は妥当であると考えます。しかし、韓国ではこのような良心的兵役拒否により毎年600人程度が有罪となっているそうです。
 以下は、判示の一部抜粋です。

2018年4月1日日曜日

送り状に他人の名前を書くと私文書偽造となるか(大法院2018年1月25日判決)

 本件は、被告人が叔母と叔父を陥れるために、叔母と叔父を送り主として偽物の爆弾を送る際に、送り状に叔母と叔父の名前を書いた行為が私文書偽造になるかどうかが争われた事件です。
 原審は、送り状は刑法上の私文書に当たらないとして無罪としましたが、大法院は送り状は荷物の送り主が誰であるかを証明することができる文書なので、刑法上の私文書に当たるとし、私文書偽造及び行使罪が成立するとしました。
 送り状には住所と名前しか書かれていないのに私文書偽造になるというのは変な感じがしますが、私文書偽造という犯罪が文書の作成者を偽る行為であるとすると、送り状が文書であるとすれば私文書偽造が成立するというのは仕方がないのかもしれません。
 この理屈が成り立つとすると、送り状を使用せずに荷物の箱に直接住所と名前を書いた場合であっても、文書は紙に書かれている必要はないので、嘘の住所と名前を書けば私文書偽造になるということになるのでしょう。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2018年3月30日金曜日

北朝鮮のツイッターをフォローすると国家保安法違反になるか(大法院2018年1月25日判決)

 本件は北朝鮮のツイッターアカウントをフォローしたことが国家保安法第7条(讃揚、鼓舞等)に該当するか争われた事件です。
 結論としては、頒布や頒布の幇助、所持には当たらないとして一部無罪となりましたが、反国家団体に同調している部分は認められて有罪となりました。
 人は生まれる国を選択することができませんが、自分が選択できないことのせいで自分の行動が制限されることがあってはならないというのが基本的人権の根本思想だと考えています。生まれる国は選択することはできないとしても、生活する国は選択することができるのだから、生まれた国が嫌なら出て行けばいいという人もいますが、そのような考え方は多数派の暴力だと思います。
 今は激動の世の中ですが、相変わらず行政文書の改ざんだの、貴乃花の処分だのしかテレビでやらない日本という国は、きっと平和なんだろうなと思われます。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2018年3月29日木曜日

犬鍋にするために犬を殺したことが動物愛護法違反とされた事件(済州地方法院2018年3月22日判決)

 本件は、犬鍋にするために犬を殺した方法が残虐であるとして動物愛護法違反の罪となり、懲役8ヶ月執行猶予2年、保護観察と160時間の社会奉仕を命じられた事件です。
 韓国では夏になると体力をつけるために犬を食べる習慣があって、よくテレビで犬を盗まれたというニュースをやっていました。血統書付きの犬を盗んで食べたのが見つかって何百万円の損害賠償を請求されたというのもありました。
 本件は犬を食べたこと自体が犯罪となったのではなく、犬の殺し方が残忍であったとして動物愛護法違反の罪となりました。スイスではロブスターを生きたままゆでることが法律で禁止されるようになりましたし、食べるために動物を殺すにしても、愛情をもって殺さなければならないということなのでしょうか。
 以下は、判決の一部抜粋です。
 いかなる者も動物に対して道具、薬物を使用して傷害を負わせる虐待行為をしてはならない。
 それにもかかわらず、被告人らは2017年3月25日12時ごろ、済州市にある道路でCから買い入れた犬1匹を被告人Aのオートバイにひもでつないでから被告人Aはオートバイを運転して行き、被告人Bは後ろから乗用車を運転して付いていく方法で上の犬を無理やり連れて行き、上のオートバイについて走って行ったが疲れて倒れた犬を続けて引っ張っていくことで犬の脚や口などに擦過傷などを与えて虐待行為をした。
 いかなる者も首をつるなどの残忍な方法で動物を殺してはならない。
 それにもかかわらず、被告人らは2017年3月25日13時ごろ、済州市にある被告人Aの住居地横の空き地で被告人Aは上のように引っ張ってきた犬の首にひもをつないでそこに設置されていた鉄パイプにかけてから、犬を持ち上げて、被告人Bは横でこれを見守る方法で共謀して上の犬をつるして残忍な方法で犬を殺した。

2018年3月23日金曜日

受刑中の被告人に執行猶予の判決ができるか(仁川地方法院2018年2月22日判決)

 本件は、仁川拘置所に収監されていた被告人が、懲役刑が確定して矯正施設に移されるのが嫌で、自分の住所地に近い拘置所に移動できるように、知人に自分を詐欺罪で告訴させた事件です。これにより、虚偽告訴教唆罪で執行猶予付きの懲役刑となりました。
 懲役刑が確定したからと言って直ちに刑務所に行くわけではなく、しばらくは拘置所にいて、その期間に別の事件で逮捕されたり起訴されたりすると、刑務所ではなく、そのまま拘置所で受刑することになります。被告人は、遠くの刑務所に行ったら家族から面会に来てもらえなくなるので、家の近くの拘置所で受刑できるように策を弄したのだと思われます。
 なお、執行猶予について、韓国の刑法では、禁固以上の刑を宣告した判決が確定したときからその執行を終了したり免除されてから3年までの期間に犯した罪について刑を宣告する場合には執行猶予を付けることができません。
 本件は、被告人が恐喝罪の懲役刑が確定する前に犯した罪なので、被告人が受刑中であっても執行猶予をつけることができました。
 日本の刑法では、前に禁固以上の刑に処されたことがない者、または前に禁固以上の刑に処されたことがあってもその執行を終わった日から5年以内に禁固以上の刑に処されたことがない者は、刑の全部の執行を猶予することができると規定しているので、条文上は懲役刑に処されたことがある被告人には執行猶予を付けることができないように思えます。
 しかし、判例(最高裁昭和28年6月10日判決)は、同時に審判されていたら刑の執行を猶予することができたという理由で、刑が確定する前に犯した罪については執行猶予を付けることができるとしているので、日本でも執行猶予を付けることができます。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2018年3月20日火曜日

性暴力処罰法(カメラ等利用撮影)の適用について(大法院2017年12月28日判決)

 本件は、被害者が自分で撮影した下腹部の写真を被告人に渡したところ、被告人がその写真をSNSにアップしたことが、性暴力処罰法に規定するカメラ等利用撮影に該当するかが争いになりました。
 性暴力処罰法が規定するカメラ等利用撮影は他人の身体を撮影したり、その撮影物を公に展示した場合に処罰することを規定していますが、原審は、他人の身体が撮影された撮影物を展示した場合にも処罰することができると解釈しましたが、大法院は被告人が他人の体を撮影した撮影物を公に展示した場合にのみ処罰するとしか解釈できないとし、被害者が自分の意思で撮影したものを被告人が公に展示した場合は処罰できないとしました。
 日本ではリベンジポルノが問題になったことから2014年に私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律(リベンジポルノ被害防止法)が制定され、性的な写真を不特定多数の者に提供すると処罰されるようになりましたが、撮影対象者が自分で撮った写真であっても第三者が閲覧するつもりでなければ、その写真を不特定多数の者に提供すると処罰されます。本件が日本で発生した事件であれば、リベンジポルノ被害防止法によって処罰されたと考えられます。
 一方、韓国では早い時期から性暴力処罰法を制定して性暴力に対応し、リベンジポルノについても被告人が撮影したものであれば処罰することができます。しかし、リベンジポルノは被害者が自分で撮影した性的写真を渡した後でインターネットなどで公開されてしまうことがよくあるので、これに対応できるように性暴力処罰法の改正が望まれます。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2018年3月19日月曜日

無罪になった場合に起訴が違法であったと慰謝料を請求できるか(釜山地方法院2018年2月21日判決)

 本件は、複数の恐喝、暴行などの事件で起訴された原告が、そのうち3つの恐喝事件について無罪となったことから、検察官が被害者の虚偽の陳述をうのみにして起訴および控訴したとして国に精神的苦痛に対する慰謝料を請求したものです。
 原告は起訴事実の一部が無罪になっただけで、残りの犯罪事実によって有罪の判決を受けているので、身体拘束を受けていた期間に対する補償をうけることはできないことから国家賠償訴訟を提起したものと思われます。
 刑事裁判で無罪になったことだけでは起訴が違法になることはないという判断は、日本では1978年10月20日及び1989年6月29日に最高裁が、韓国では2013年2月15日に大法院が判決の中で述べています。
 検事は有罪か無罪かを判断してもらうために裁判所に起訴することが仕事なので、結果として無罪と判断されたからといって直ちに起訴したことが違法にならないというのはそうなのでしょうが、そもそも罪となる事実がなかったにもかかわらず、そのような事実があると判断して起訴した場合は、少なくとも過失があるように思えます。
 つまり、起訴事実は存在するが、それが刑法上の犯罪にあたるかどうかの判断が検察と裁判所で分かれるということはあるとしても、起訴事実が存在しないのに、検察の収集した証拠から起訴事実が認定できるかどうかの判断が検察と裁判所で分かれるということはありえないだろうということです。
 確かに、裁判所が起訴事実の存在を認めなかったとしても、それは起訴事実が存在しなかったということではなく、検察官の収集した証拠からは起訴事実が認定できないというだけなのでしょう。起訴事実の存否は被告人しか知らないのですから。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2018年3月15日木曜日

給与未払いに対して罰金が命じられた事例(釜山地方法院2018年1月25日判決)

 本件は、会社の経営者が知人の紹介で入社した者に対し、「会社に仕事のやり方を学びにきただけ」、「会社に利益が出たら一部を支払うという約束をした」として労働者に当たらないので給与を支払わなかったと主張したのに対し、労働者に当たるとして労働基準法違反で200万ウォンの罰金が命じられた事例です。
 僕も韓国の会社で働いていたときに、4ヶ月分の給与が未払いのまま会社が休業してしまったことがありました。就業ビザの問題があったので別の会社に転職するのも容易でなく、そのうち払ってくれることを期待してずるずると給与をもらえないまま働いていました。その後、他の会社に就職することができたので韓国生活を続けることができましたが、未払いの給与は結局もらえないままでした。
 こんなときに弁護士の知り合いがいたら、もっとよい解決方法があったかもしれないと思ったのが、弁護士になろうと思ったきっかけの1つになりました。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2018年3月8日木曜日

花火事故で業務上過失致傷が認められなかった事例(春川地方法院2018年1月9日判決)

 本件は、花火大会で水上から花火を発射したところ、その一部が観覧席近くまで飛んでいって爆発し、観覧客が怪我をしたという事件で、花火を発射した技術者2名が業務上過失致傷で起訴されたものです。
 検察は、安全距離確保などの義務を果たしていなかったことが過失に当たると主張しましたが、裁判所は、花火の発射場所と観覧席までの距離はある程度確保されていたとし、花火の一部だけが観覧席まで飛んだことから花火自体に不良があった可能性があるとして無罪としました。
 業務によって誰かを怪我させると、当然になんらかの過失(ミス)があったから怪我をさせたのですから、ストレートに業務上過失致傷が成立しそうですが、刑法上の過失はミス(主観的過失)ではなく、義務違反(客観的過失)であるとされています。
 本件も不良品の花火を使用したというミスはあったかもしれませんが、花火が不良がどうかは知る由もなかったので、通常すべきことをしていたので義務違反はなかったと判断したのは妥当だと思われます。
 ただ、被害者にとっては、この刑事裁判の結果によって民事上の損害賠償請求においても花火の主催者側に過失がなかったと判断される可能性が高く、誰からも賠償してもらえないということになってしまいます。こういうときのために保険には入っていた方がいいのかもしれません。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2018年3月6日火曜日

執行猶予期間満了後の再審で懲役刑を罰金刑に変更できるか(大法院2018年2月28日判決)

 姦通罪と傷害罪で懲役1年執行猶予2年の実刑判決を受けた被告人が、姦通罪が違憲と判断されたことをきっかけに再審を請求したところ、姦通罪は無罪となり、傷害罪について懲役刑から罰金刑に変更されました。
 ところが、再審の請求をしたときには、すでに執行猶予期間である2年が過ぎていたので、被告人は刑罰を受けなくてもよくなっているのに、再審を請求したことで罰金を払わなければならなくなったことが、二重処罰禁止の原則や不利益変更禁止の原則に反しているのではないかということが問題になりました。
 裁判所は、執行猶予期間が過ぎたことは刑罰を受けたことと同じとはいえないので被告人に懲役刑と罰金刑の二重処罰をしたことにはならない、罰金刑は懲役刑よりも重くないので不利益変更には当たらないとしました。
 確かに理屈としてはそうなのかもしれませんが、既に執行猶予期間が過ぎている被告人にとっては、再審請求をしなければ何も刑罰を受けなくてもよかったのに、再審請求をしたばかりに罰金を払わなければならなくなったという気持ちになると思います。
 例えば、弁護士は禁固以上の刑に処された場合は資格を失うということがありますし、再犯になると罪が重くなるので、懲役刑が罰金刑に変更されるのは有利な変更です。しかし、資格をもっていなければ関係ないですし、普通に生活していたら再犯で起訴されることはないので、罰金に変更されるのは不利益変更だといいたくなると思います。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2018年1月23日火曜日

犯人識別手続に不備があり無罪とされた事例(蔚山地方法院2017年9月21日)

 本件は、被告人は学校の前で児童に対してズボンを下ろしてわいせつ行為を行ったとして逮捕されましたが、目撃証言に信用性がないとして無罪とした事案です。
 目撃者に対して被告人が犯人であるという証言を得るために、警察は4枚の写真を提示してその中から犯人を指し示すように求めましたが、目撃者が犯人の髪型がパーマであったと言っているにもかかわらず、4枚の写真のうち髪型がパーマとはっきり分かるのが被告人の写真だけだったという考えられないことをしていました。
 韓国では法廷の様子をモニタをとおして見ることができるのですが、目撃者の方々はモニタに映った被告人をみて犯人ではないかもしれないと言い出しました。
 わいせつ事件で逮捕、起訴された場合、裁判で無罪になったとしても疑われたという事実だけで社会的な評価に大きな影響を与えます。証拠が足りないから無罪ということになると、証拠があれば有罪になっていたかもしれないと考える人も少なくないからです。
 冤罪で起訴された人の社会的な評価を回復するということについて、今は弁護士ができることはありませんが、弁護士に対する社会的な信用を高めることで「弁護士が無罪といっているのだから、無罪なんだろう」と考えてもらえるようになればと思います。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2018年1月5日金曜日

行政訴訟で訴訟詐欺が成立するか(昌原地方法院2017年11月23日判決)

 本件は、課徴金の賦課処分に対して取消訴訟を提起したが、そのときに偽造した文書を裁判所に提出した行為が訴訟詐欺未遂になるとして起訴されたものです。
 裁判所は、詐欺に該当するかどうかを判断せず、行政訴訟では訴訟詐欺は成立しないとして訴訟詐欺未遂は無罪としました。
 行政が詐欺の対象になるかどうかでいえば、生活保護の不正受給について悪質なものは詐欺罪で有罪になっているので、行政から金銭を詐取する行為も詐欺に当たります。そうすると、行政訴訟でも訴訟詐欺が成立する余地があると思われます。
 なお、本件では判決の中で日本の判例は学説にも言及しています。
 以下は、判決の一部です。

2017年12月7日木曜日

外国のサーバー内にある電子情報を差押えすることができるか(大法院2017年11月29日判決)

 本件は、外国の会社が提供する電子メールサービスを利用してやり取りされたメールの内容を差し押さえたことが適法であるとしたものです。
 日本では、2011年に刑事訴訟法が改正されたときに、第218条第2項で遠隔地にあるサーバから電子情報をパソコン等にダウンロードして差押えができること(リモート差押え)を条文化しました。
 日本の裁判所が発布した令状にもとづいて外国にあるサーバに対してアクセスできるかどうかについては、横浜地裁平成28年3月17日判決において、検証許可状にもとづいてパソコンに送受信メールをダウンロードして保存することは違法であるとしました。また、メールサーバが他国に存在している場合にこれにアクセスすることは、当該他国の主権に対する侵害が問題となりうるとし、捜査機関としては国際捜査共助を要請する方法によることが望ましいとしました。
 しかしながら、国際捜査共助を要請しなければダウンロードできないとすると、サーバが国内にあるのか国外にあるのか判明しない場合、また、国外のどこにあるか判明しない場合は捜査ができなくなってしまいます。差押え令状があればサーバにアクセスする権限があるとして、今回の韓国の判例のように、サーバが国外にあっても差押えることができると解するべきと考えます。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2017年11月22日水曜日

オレオレ詐欺の「出し子」に詐欺の故意が認められず無罪とされた事例(大邱地方法院2017年10月26日)

 最近の特殊詐欺は分業化され、所謂「出し子」のような末端組織は言われたとおりにお金を引き出すだけであり、犯罪の片棒を担いているという意識がないことがあります。
 本件は、検察官は特殊詐欺の手口はよく知られており「もしかしたら特殊詐欺の片棒を担がされているのかもしれない」という疑いがあったのであれば、詐欺ほう助罪の故意があるとして起訴しましたが、裁判官は「身元を隠そうとしていないのは自分が犯罪を行っているという意識がないから」とし、無罪としました。
 裁判官は「出し子」もお金が必要な状況を利用されて道具にされた被害者なので処罰をすべきでないという意識があったのかもしれませんが、あまり深く考えない人ほど犯罪の意識がないと判断され、犯罪の故意が認められなくなるという結論には疑問があります。
 以下は、判決文の一部抜粋です。

2017年11月20日月曜日

家庭暴力処罰法の不処分決定と一事不再理(大法院2017年8月23日判決)

 韓国ではDVが発生した場合に家庭裁判所がDV加害者に対して「DV被害者を保護する処分」をすることができ、これによりDV加害者はDV被害者に接近することができなくなります。ここでDV加害者が反省しているとして「保護処分をしない決定」をした場合、DV行為についても刑事処分をすることができなくなるかが問題となりました。
 大法院は「保護処分をしない決定」があったからといってDV行為について刑事処分ができなくなるわけではなく、二重処罰の原則や一事不再理の原則に反するものではないとしました。
 日本でも少年事件の審判不開始決定は既判力がなく一事不再理の効力は認められないとした最高裁昭和40年4月28日判決がありますが、この判決と本件判決に似たような書きっぷりがあり興味深いです。
 以下は、本件判決の一部抜粋です。興味のある方は読んでみてください。