2018年3月8日木曜日

花火事故で業務上過失致傷が認められなかった事例(春川地方法院2018年1月9日判決)

 本件は、花火大会で水上から花火を発射したところ、その一部が観覧席近くまで飛んでいって爆発し、観覧客が怪我をしたという事件で、花火を発射した技術者2名が業務上過失致傷で起訴されたものです。
 検察は、安全距離確保などの義務を果たしていなかったことが過失に当たると主張しましたが、裁判所は、花火の発射場所と観覧席までの距離はある程度確保されていたとし、花火の一部だけが観覧席まで飛んだことから花火自体に不良があった可能性があるとして無罪としました。
 業務によって誰かを怪我させると、当然になんらかの過失(ミス)があったから怪我をさせたのですから、ストレートに業務上過失致傷が成立しそうですが、刑法上の過失はミス(主観的過失)ではなく、義務違反(客観的過失)であるとされています。
 本件も不良品の花火を使用したというミスはあったかもしれませんが、花火が不良がどうかは知る由もなかったので、通常すべきことをしていたので義務違反はなかったと判断したのは妥当だと思われます。
 ただ、被害者にとっては、この刑事裁判の結果によって民事上の損害賠償請求においても花火の主催者側に過失がなかったと判断される可能性が高く、誰からも賠償してもらえないということになってしまいます。こういうときのために保険には入っていた方がいいのかもしれません。
 以下は、判決の一部抜粋です。

 本裁判所が適法に採択して調査した証拠によると、被告人らが艀から観覧客らが観覧していた側に発射した4インチ水上花火12発のうち2発程度が他の水上花火より遠くに飛んでいって爆発し、川辺で花火を観覧していた被害者らが火花が落ちてきて傷害を負った事実、被告人らは当時砲身2台から各砲身ごとに1発、2発、3発ずつ発射する方法で総12発の水上花火を発射したが、被告人らが最後に3発ずつ発射した水上花火のうち2発程度が上のように遠くに飛んでいって爆発した事実が認められる。
 検事は、本件で被告人らが十分な安全距離を確保しなかった点、発射角度を適正に調整しなかった点、銃砲火薬安全技術協会(以下「安全技術協会」という)によって安定度試験がなされていなかった火薬類を人に向かって発射した点、フォークリフトの後ろに隠れて火薬類がちゃんと発射されたか見守っていなかった点を被告人らの過失と挙げている。
 しかし、記録によると、被告人らは観覧客らと約180メートル程度離れた川に艀を設置してから砲身を15度の角度にして4インチ水上花火を発射しているが、このような場合水上花火は約60メートル程度飛んで水の上に落ちてから火薬が爆発し、水と一緒に水の上に上がってきて花火を演出するようになっているなど、当時被告人らは十分な安全距離および発射角度を維持し続けたと主張しているところ、安全技術協会の職員Jは水上花火の発射場所と観覧客の間の間隔をどの程度離さなければならないかについての安全距離規定はないと陳述しており、また、実際に本件で被告人らが上のように離していたと主張している距離が4インチ水上花火を発射するために十分な安全距離に該当しないとか、被告人らが実際に上の距離よりもっと近い距離から水上花火を発射したといえる証拠がない点、水上花火の発射角度に関する規定もなく、当時被告人らが主張する発射角度が適正な発射角度から外れていたか確認できる証拠がなく、当時被告人らが被告人らの陳述の発射角度と異なって発射角度を調整して水上花火を発射したことで水上花火がより遠くに飛んでいったといえる証拠もない点、特に、当時被告人らは12発の水上花火を発射したが、そのうち最後の3発ずつ6発を発射した水上花火のうち一部だけが他の水上花火より遠くに飛んで観覧席の近くで爆発した点、被告人らは当時水上花火と一緒に使用した打上花火について安全技術協会の安定度試験で適合判定を受けたが、打上花火の中には水上花火が含まれているので水上花火についてのみ別途の安定度試験が必要でないものともいえる点、水上花火を発射した砲身自体には水上花火を飛ばす火薬類がなく、このような火薬類は水上花火に装着されているといえるが、このような火薬類が被告人らの主張通りに被告人らが輸入して安定度検査を受ける当時から既に水上花火に装着されていたものではなく、被告人らが自ら火薬類を設置して使用したとか、または被告人らが水上花火を発射する前に既に水上花火に装着されていた火薬類に不良があった点を認知していたとか認知することができた状況であったといえる証拠もなく、認知に怠ったといえる証拠もない点に照らして被告人らの主張通り被告人らが輸入する当時から水上花火に装着されていた火薬類の不良によって一部の水上花火が他の水上花火より遠くに飛んで本件事故を発生させた可能性も排除できない点、本件事故は被告人らが発射した最後の水上花火のうち一部だけが他の水上花火より遠くに飛んで発生したものなので、被告人Bが水上花火の発射当時に発射正面を見守っておらずフォークリフトの後ろに隠れていたとしてもこのような行為は本件事故との間に相当因果関係も認めがたい点などを総合してみると、検事が提出した証拠のみでは本件事故が検事があげているような被告人らの過失によって発生したものであるという点について有罪の確信を得る程度に証明されたといい難く、他にこれを認める証拠がない。
 そうすると、本件事故が被告人らの控訴事実記載のような過失によって発生したという業務上過失致傷罪や被告人らが銃砲・刀剣・火薬類などの安全管理に関する法律上の安全距離未確保などの措置を適正に取らなかったことを前提(火薬類である水上花火によって本件事故が発生したという結果のみで被告人らが水上花火発射当時に十分な安全距離確保などの措置を取らなかったという事実を直ちに推認することはできない)とする銃砲・刀剣・火薬類などの安全管理に関する法律違反罪の公訴事実は犯罪の証明がない場合に該当して刑事訴訟法第325条後段によって無罪を宣告することにし、主文のように判決する。

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