2018年4月24日火曜日

電子ファイルとその出力物の同一性(大法院2018年2月8日判決)

 本件は、電子ファイルの状態で作成された売上記録を変造して脱税したとされた裁判において、問題となった売上記録を証拠として裁判所に提出する際に紙にプリントアウトして提出しましたが、このプリントアウトされた売上記録の内容と、USBに保存されている電子ファイルの内容が同じものであるかどうかが問題となりました。
 USBに保存されている電子ファイルの内容とプリントアウトされたものが同じ内容でないとすると、裁判所に提出された紙の記録は証拠にならないことになりますが、これらが同じものであるということは検察に証明責任があります。本件では、検察の証明が十分でないとして裁判所に提出された紙の記録に証拠能力がないとし、有罪を認めていた原審に差し戻しを命じました。
 電子ファイルの状態のものを紙にプリントアウトしたときに、そのプリントアウトされたものが電子ファイルの写しなのか、紙にプリントアウトされたものが原本なのかという問題もあり、そもそも電子ファイルとは何なのかという根本的なところから考えなければなりません。もっとも、原本は手書きで写しも手書きしかなかった頃は、原本と写しは明らかに区別することができましたが、原本をワープロで作成して写しをコピー機で作成すると、原本と写しを区別することができません。原本と写しの区別をすること自体が時代に合わなくなっているのかもしれません。
 以下は、判示の一部抜粋です。

2018年4月19日木曜日

株式交換に適用される税法の条文(大法院2018年3月29日判決)

 本件は、完全子会社化するために実施された株式交換において、完全子会社となる会社ん株式が過大に評価されているとして税務当局が子会社になる会社の株主に対して贈与税を賦課したのに対し、大法院が適用する条文が誤っているとして原審に差し戻したものです。
 交換は、日本の民法では「当事者が互いに金銭の所有権以外の財産を移転すること」とされていますが、「売主が物を売り、その代金で買主から物を買う」行為であると見ることもでき、まさに株式交換は「所有している株式を売却し、現金を受取り、その金銭で新たな株式を購入する」行為とみなしているので、原則として子会社になる会社の株主には譲渡税が発生することになります。
 本件の原審もこのような考えにもとづいて子会社になる会社の株式が過大評価されていた場合には、子会社になる会社の株主が「財産を高価で譲渡した」場合の条文が適用されるとしましたが、大法院は株式交換は完全子会社化のためのテクニックなので「法人の資本を増加させる」場合の条文を適用すべしとしました。
 以下は、判示の一部抜粋です。

2018年4月18日水曜日

支払利息が取得税の課税標準に含まれるか(大法院2018年3月29日判決)

 本件は、不動産を取得する時期に借り入れた資金に関する支払利息が当該不動産の取得税を計算するための課税標準に含まれるかが問題となった事件で、原審は支払利息が当然に課税標準に含まれるとしましたが、大法院は、借入資金が不動産の取得のために使われたのかどうかについて課税官庁に証明責任があるが、十分な証明がされていないとして原審に差し戻しました。
 法律の勉強をしていても、税法は範囲が広いだけでなく、通達などによって運用されているところが多く、弁護士には難しい分野です。しかし、詳細には知らなくても大まかなことは知っておかなければ、依頼者に過大な税金が賦課されたり、税金がかかることを知らないまま放置して加算税が賦課されたりする危険もあるので、勉強しつづけることは大切だと思います。
 以下は、判示の一部抜粋です。

2018年4月16日月曜日

LGBTイベントのために公園を使用できるか(済州地方法院2017年10月27日判決)

 本件は、LGBTのイベントを行うための公園の使用許可及びイベントのブースを設置するための占有許可を一度は承認したにもかかわらず、周辺住民からの反対の声が上がったことを理由に許可を撤回したのに対し、撤回の効力の停止処分を求めたものです。
 LGBTのイベントというと性的なイメージがあるため、青少年に悪影響を与えるのではないかと周辺の住民の方が心配になるのは理解できます。しかし、そのようなLGBTに対するイメージを払拭するためにイベントを行っているのですから、周辺の住民の方の反対があるからという理由でイベントをさせないようにするのは間違っているといわざるを得ません。
 憲法は国民が守るものではなく、政治家が守るものであるという言い方をすることがありますが、憲法というのは法律を作るときや解釈をするときの基準になるものなので、法律を作ったり解釈する機会のない人にとっては憲法を守らなければいけない状況にならないだけで、他人の権利を尊重するという姿勢は守らなければなりません。
 社会の中では常に権利と権利とが衝突し、その調整が必要とされています。他人の権利を尊重するというのは、自分の権利が侵害されてもいいから他人の権利を認めるということではなく、自分の権利と他人の権利が衝突したときに自分の権利のみを主張するのではなく、憲法に基づいた権利の調整に従うという姿勢が大切なのではないかと考えます。
 以下は、判示の一部抜粋です。

2018年4月10日火曜日

被相続人の退職年金を受領すると単純承認になるか(蔚山地方法院2018年3月29日)

 本件は、相続人が相続放棄をしたのに対し、被相続人の債権者が「相続人が被相続人の会社から退職金や退職年金などを受領した行為が相続財産の処分行為に該当し、単純承認とみなされる」と主張し、相続人に対して借金の返済を求めた事案です。
 相続人が被相続人の債権を執行する行為は相続財産の処分行為に当たり、単純承認をしたとみなされるのが原則です。
 しかし、裁判所は相続人が被相続人の扶養家族であり、まだ学生であったこと、退職金の2分の1に該当する金額や退職年金は差押え禁止財産であること、相続人が受領した金額は差押え禁止財産の範囲内であることを理由に、退職金や退職年金を受領した行為は相続財産の処分行為に当たらないとしました。
 相続人が債権を取り立てる行為が相続財産の処分行為に当たるというのは日本の判例にもありますが(最高裁昭和37年6月21日判決)、今は給与が現金払いされることがなくなったり、通常は現金は銀行に預けておくようになったりしているので、給与債権や預金債権を現金化することを債権を取り立てることと同一視すべきでないと考えます。
 また、相続財産が現金として手元にある場合にその中から葬式代を出すことは相続財産の処分に当たらないのに、銀行に預けてある場合にはその中からら葬式代を出すと相続財産の処分に当たるとするのは変だと思うのが常識的な判断と思われます。
 本件は、葬式費用を出すために退職金などを受領した行為を相続財産の処分に当たるとして単純承認とみなすと多額の借金を背負うことになるという事情を踏まえて、単純承認に当たらないとしたと思われます。理由は疑問がありますが、結論は妥当と思います。
 以下は、判示の一部抜粋です。

2018年4月9日月曜日

在留資格の変更が認められなかった事例(蔚山地方法院2018年3月29日判決)

 本件は、外国人労働者が事業場の変更をする場合は労働契約の終了日から1ヶ月以内に申請しなければなりませんが、労働契約の終了日が当初の労働契約の終了日なのか、更新した労働契約の終了日なのかが争いとなった事件です。
 裁判所は、使用者が労働契約を更新するときに届出をしなかったので、労働契約は当初の終了日に終了しているとし、在留資格の変更を認めませんでした。
 労働契約自体は労働者と使用者の合意によって決まるので、労働契約を両者が合意して更新した場合は、労働契約の終了日は更新した労働契約の終了日になると考えるべきだと思います。
 しかし、在留資格の変更は在留資格を有するものだけに認められるもので、労働契約の終了日から1ヶ月以内に事業場の変更を申請するようになっているのは、労働契約が終了した在留資格の基礎となる事実が消滅しても、それから1ヶ月以内であれば変更を認めるという趣旨だと考えられます。そうすると、使用者が労働契約の更新を届け出なかったときは、外国人労働者の在留資格が消滅するので、在留資格の変更が認められないという結論自体は妥当であると考えます。
 外国人が就労ビザを取るのは使用者にとっても手続きが面倒ですが、使用者のミスによって働きたいのに働けなくなるというのはかわいそうだと思いました。
 以下は、判示の一部抜粋です。

2018年4月6日金曜日

取引の相手方が問題となった事例(大法院2018年1月25日判決)

 本件は、軽食のフランチャイズ加盟店に食材を供給していた食品メーカーが、流通業者から代金を支払ってもらえなかったことから、フランチャイズの加盟本部に対して代金の支払いを求めたものです。
 原審は、加盟本部が食品メーカーの選定や、価格の選定を行っていたこと、流通業者が加盟店から集金して食品メーカーに支払っていたことを理由に、流通業者は加盟本部の手足となって食材の供給をしていただけで、取引の真の相手方は加盟本部であるとして代金の支払いを命じました。
 これに対し、大法院は、食品メーカーが税金計算書を流通業者に発行していたこと、帳簿に取引の相手方として流通業者の名前を記載していたことを理由に、取引の相手方は流通業者であるとして差し戻しを命じました。
 コンビニやスーパーでの買い物とは異なり、会社などの取引では物を渡した後にお金をもらうのが通常なので、物は渡したのにお金がもらえないということがよくあります。売買契約の相手方は、実際に物のやり取りをしている者であるのが原則なので、物を渡した者にお金を請求することになりますが、相手がお金を持っていなければどうしようもありません。そのような場合に、どうにかして他にお金を持っている人からお金をもらおうとすることになります。本件は、まさにそのような場合であったと思われますが、原審では加盟本部に支払い義務を認めているので、必ずしも理由をこじつけてお金をもらおうとしていたのではないのかもしれません。
 以下は、判示の一部抜粋です。

2018年4月5日木曜日

盗品の買主に損害賠償を請求できるか(蔚山地方法院2018年3月23日判決)

 本件は、会社Aに勤務する職員Bが、会社所有の資材を横領し、会社Aに無断でC(会社Dの代表取締役)に販売した事案で、会社Aが原告となり、職員Bだけでなく、C及びDに対しても損害賠償を請求した事件です。
 裁判所は、Bについては損害額の全額を、C及びDについては損害額の80%を支払う義務があるとして、連帯で支払うように命じました。
 本件は盗品の売買に関する事案ですが、原則として資材の所有権は原所有者Aにあるので、即時取得が認められない限り、C及びDが資材をAに返還し、BがC及びDに代金を返還することで解決します。
 しかし、資材が既に使用されていて返還することができないのが通常で、この場合は、C及びDはAに返還するものがなく、Aが資材の価格相当の損害を被るので、AがBに対して損害賠償を請求することになります。もっとも、横領するような者が資産をもっているはずがなく、AはBに損害賠償を請求しても損害額を満足させることができないので、C及びDに請求できるかどうかが問題となります。
 本件は、盗品がどうかを確認すべき注意義務を怠ったと判断しましたが、盗品かどうかを確認すべき注意義務の根拠は明らかにされていません。通常の取引では、そのような注意義務があるとは思えませんが、本件は、販売価格が原価を下回っていたこと、1年以上にわたって売買していたことなど、Cが本件資材が盗品であることを知っていたであろうことを推定させる事実があったことから、過失による不法行為を認めた事例判断であると思われます。
 また、今回は連帯責任を認めましたが、B、C及びDの責任割合までは明らかにしていないので、例えばBが全額を支払った場合に、C及びDにどれだけ求償できるかのかということに興味がもたれます。
 以下は、判示の一部抜粋です。

2018年4月4日水曜日

宗教上の理由により兵役を拒否できるか(蔚山地方法院2018年3月6日)

 本件は、信仰している宗教の教えに従って兵役につくことを拒否したことについて、兵役法違反に当たらないとして無罪を宣告した事件です。
 韓国は徴兵制があり、兵役法88条第1項の規定により、現役入営通知書を受けた者が正当な理由なく入営日から3日以内に入営しない場合には3年以下の懲役に処されることになります。正当な理由については例示がありませんが、裁判所は、物理的な理由で入営できない場合に限らず、憲法で保障された権利にもとづいて、かつ、兵役法の立法目的を毀損しない範囲で兵役を拒否する場合も含むとしました。
 軍隊に入隊して訓練するということは、戦争のための訓練をすることです。戦争のための訓練とは家族を守るための訓練といえば聞こえはいいですが、家族を守るために敵を殺すための訓練であることに違いはありません。
 人を殺したくない、人を殺してはならないと考え、人を殺すための訓練を拒否することは正当な事由であるとした裁判所の判断は妥当であると考えます。しかし、韓国ではこのような良心的兵役拒否により毎年600人程度が有罪となっているそうです。
 以下は、判示の一部抜粋です。

2018年4月1日日曜日

送り状に他人の名前を書くと私文書偽造となるか(大法院2018年1月25日判決)

 本件は、被告人が叔母と叔父を陥れるために、叔母と叔父を送り主として偽物の爆弾を送る際に、送り状に叔母と叔父の名前を書いた行為が私文書偽造になるかどうかが争われた事件です。
 原審は、送り状は刑法上の私文書に当たらないとして無罪としましたが、大法院は送り状は荷物の送り主が誰であるかを証明することができる文書なので、刑法上の私文書に当たるとし、私文書偽造及び行使罪が成立するとしました。
 送り状には住所と名前しか書かれていないのに私文書偽造になるというのは変な感じがしますが、私文書偽造という犯罪が文書の作成者を偽る行為であるとすると、送り状が文書であるとすれば私文書偽造が成立するというのは仕方がないのかもしれません。
 この理屈が成り立つとすると、送り状を使用せずに荷物の箱に直接住所と名前を書いた場合であっても、文書は紙に書かれている必要はないので、嘘の住所と名前を書けば私文書偽造になるということになるのでしょう。
 以下は、判決の一部抜粋です。