2018年4月4日水曜日

宗教上の理由により兵役を拒否できるか(蔚山地方法院2018年3月6日)

 本件は、信仰している宗教の教えに従って兵役につくことを拒否したことについて、兵役法違反に当たらないとして無罪を宣告した事件です。
 韓国は徴兵制があり、兵役法88条第1項の規定により、現役入営通知書を受けた者が正当な理由なく入営日から3日以内に入営しない場合には3年以下の懲役に処されることになります。正当な理由については例示がありませんが、裁判所は、物理的な理由で入営できない場合に限らず、憲法で保障された権利にもとづいて、かつ、兵役法の立法目的を毀損しない範囲で兵役を拒否する場合も含むとしました。
 軍隊に入隊して訓練するということは、戦争のための訓練をすることです。戦争のための訓練とは家族を守るための訓練といえば聞こえはいいですが、家族を守るために敵を殺すための訓練であることに違いはありません。
 人を殺したくない、人を殺してはならないと考え、人を殺すための訓練を拒否することは正当な事由であるとした裁判所の判断は妥当であると考えます。しかし、韓国ではこのような良心的兵役拒否により毎年600人程度が有罪となっているそうです。
 以下は、判示の一部抜粋です。

 我が国の特殊な安保状況を勘案しても、1年間に良心的兵役拒否によって懲役刑を宣告される者が600名程度と入営人員全体の0.2%に過ぎず、軍事力の低下などを論じるのは難しい。既に防衛産業体や公益勤務など代替服務形態の軍服務が毎年徴兵検査人員のうち約13%に達している点を勘案すると、更にそうである。世界的に徴兵制を採択している多くの国家、特に台湾も良心的兵役拒否を認めており、国連の人権委員会も良心に従う懲役拒否権を認めなければならないという決議案を採択した。代替服務を受容しながらその期間と勤務条件など軍服務との負担衡平性を考慮して代替服務の形態を設計、運営すれば難しくなく国民的共感帯を得ることができ、悪意的兵役忌避者も区別することができる。既に我が国の国防部でも2007年ごろ代替服務制度研究委員会を設置して積極的に代替服務制度の導入を検討して社会服務制度を新設する方案を発表したところである。
 従って、良心の自由が国防義務より先に立つ憲法的価値であると断言することは難しいが、上でみたように少なくとも国防義務の本質と兵役法の立法目的を毀損しなくても比較的容易に良心の自由を保障することができる方法がある限り、そのような良心の自由は保障されなければならない。
 被告人は、銃を取り扱う方式の兵役義務を拒否し、その代わりに代替服務を進んで履行する意思がある点で、国家共同体に対する義務を履行しないようにしようとする単純な兵役忌避とは区別される。
 被告人の法廷陳述と証拠などを総合すると、被告人はエホバの証人の信徒である両親の下で成長しながらエホバの証人を信奉し、12歳の時に聖書交付をしたが、2009年12月1日からエホバの証人に所属し、2010年5月22日に洗礼を受けた事実、被告人は2015年2月11日にCを卒業してから6か月間、○○重工業協力業者で働いたが、1年2か月間のウェイターのアルバイトをしたが、兵役義務を除いて国民としての義務を誠実に履行してきて、現在まで刑事処罰を受けた前歴も全くない事実、被告人は「神様に仕える者が二度と戦争の訓練もしない」「刀を持つ者は全て刀で滅びるだろう」という聖書の内容に従ってすべての戦争に反対し、この世の政治と戦争のような問題から中立を維持するという立場を堅持している事実、被告人は現在までエホバの証人が主管する毎週5つの集会に参加しており、毎年3回にわたって開かれる大会と記念式を含めた複数の特別な集会活動もしており、働くときにその職業が宗教生活に妨害を与えることを知って仕事を辞めて簡単なアルバイトをすることもしており、2017年1月から補助パイオニアとして活動している事実、被告人は信仰をともにする周辺の者らが被告人と同じ理由で懲役刑の刑事処罰を受けても自分に賦課された兵役義務を拒否しようと決心した事実を認定できるが、これによれば、被告人は自分の真正な良心上の決定に従って公訴事実のような兵役拒否に至ったものと判断される。
 したがって、被告人の兵役拒否は兵役法第88条第1項の「正当な事由」がある場合に該当する。

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