2018年1月5日金曜日

行政訴訟で訴訟詐欺が成立するか(昌原地方法院2017年11月23日判決)

 本件は、課徴金の賦課処分に対して取消訴訟を提起したが、そのときに偽造した文書を裁判所に提出した行為が訴訟詐欺未遂になるとして起訴されたものです。
 裁判所は、詐欺に該当するかどうかを判断せず、行政訴訟では訴訟詐欺は成立しないとして訴訟詐欺未遂は無罪としました。
 行政が詐欺の対象になるかどうかでいえば、生活保護の不正受給について悪質なものは詐欺罪で有罪になっているので、行政から金銭を詐取する行為も詐欺に当たります。そうすると、行政訴訟でも訴訟詐欺が成立する余地があると思われます。
 なお、本件では判決の中で日本の判例は学説にも言及しています。
 以下は、判決の一部です。

 訴訟詐欺は裁判所を欺罔して自己に有利な判決を得てこれに基づいて相手方から財物もしくは財産上の利益を取得することをいう。ところで、訴訟詐欺罪のための訴訟が財産権上の訴に限定されるのか、非財産権を目的とする訴も含むのか、または行政訴訟はどうなのかはっきりとした先例がなく問題となる。既存の判例は主に民事訴訟(督促手続を含む)や強制執行(競売を含む)手続に関するもので、本件のように行政処分の取り消しを求める訴訟がこれに含まれるか明白でない。
 詐欺罪の保護法益は個人的法益のうち財産権である。そうであるとすると、詐欺的行為によって国家的、社会的法益が侵害された場合、詐欺罪が成立するか、例えば欺罔手段によって脱税をしたり、登記官に不相当な標準価格を申告して登録税を免れる場合などで問題となるが、このような場合に詐欺罪は成立しないということが一般的な通説である。
 日本では、1896年明治時代の判決(大審院1896年12月5日)以来、通説判例が訴訟詐欺を詐欺罪として認定してきた。これについて、訴訟詐欺を果たして通常の詐欺罪のように取り扱ってもいいのか疑問を提起する学説(団藤重光)もいまだに多い。経済取引上の財産移転を基調として構成されている詐欺罪が国家的、強制的な制度を利用する訴訟詐欺にも該当するということが果たして妥当なのかという根本問題に至る。このような犯罪類型には「訴訟的真実義務違反による裁判機関の悪用」という新たな構成要件を考慮しなければならないというドイツの学説が注目されている。一方、日本の判例と学説もおおむね訴訟詐欺罪の成否に関して民事訴訟を前提に論理展開をしている。
 訴訟詐欺罪でいう訴訟に行政訴訟が含まれないという明白な先例はまだない。しかし、以上でみたように、①詐欺罪の保護法益は個人の財産権という点(地方自治団体が賦課した課徴金は個人的財産に該当せず、私経済主体としての作用とも言い難い)、②訴訟詐欺罪は一般の詐欺罪とその構造をかなり異ならせるので訴訟詐欺罪の成立を認定するにおいてはかなり慎重にならざるをえない点などの観点から、訴訟詐欺罪でいう訴訟には行政訴訟は含まれないと解釈するのが相当である。

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