2018年6月4日月曜日

韓国で生まれ育った外国人を強制退去させることの是非(清州地方法院2018年5月17日判決)

 本件は、ナイジェリア人の両親が在留資格を喪失したことで、家族同伴ビザで在留していた原告の在留資格を失った原告が、在留資格がないにもかかわらず仕事をしていたという理由で強制退去命令を受けたものです。
 原告は、国籍はナイジェリア人ですが韓国で生まれ育ち、韓国語以外は話せないという事情があり、国外追放になると生活することができないことから強制退去命令の取消を求めていました。
 出入国管理局は、原告の強制退去命令の取消を認めると他の不法滞在者にも在留資格を与えなければならなくなると主張しましたが、裁判所は韓国で生まれ育った原告に在留資格を認めないことが韓国国民の保護に資するとはいえないだけでなく、原告の人権を保障する観点から強制退去は違法であるとしました。
 法律を厳密に適用すると外国籍しかない者が在留資格を持っていないのであれが国外退去を命じなければならないのかもしれませんが、その国で生まれ育ち、その国の言葉しか話せない者に国外退去を命じることは、やはり人道的な点から許されないと思われます。
 以下は、判示の一部抜粋です。

 原告は、大韓民国で出生して大韓民国の教科過程を履修して成長し、主な言語として韓国語を使用しながら、他の国には出国したり居住したことがない。すなわち、原告は国籍に関して俗人主義を採択した現行法律上我が国の国籍を取得することができないが、大韓民国の言語、風習、文化、生活環境などでそのイデオロギーを形成してきて、その経済的、社会的、文化的基盤は韓国にのみ形成されているものである。
 一方、原告はその国籍であるナイジェリアの固有言語さえ使用できないだけでなく、ナイジェリアには一度も訪問したことがなく、そこに居住する親戚も一度もあったことがない。
 先に記載したところのように「強制退去命令は反社会性をもつ外国人から我が国の国民を保護するための公益的目的を達成するためのもの」という観点から見ると、原告はこれに該当しないといえる余地が大きい。
 何よりも原告の不法滞在状態は彼の帰責事由によって惹起されたものではないという点が考慮されなければならない。すなわち、原告が不法滞在状態になったのは、両親の在留資格はく奪による従属的な効果に起因するだけで、原告が自ら不法を犯したせいではない。
 もちろん原告の不法滞在及びそのような状況での不法就労自体を反社会的と評価する余地がないわけではないが、上のような原告の不法滞在や不法就労の期間、動機、背景、情況、違反の程度、原告が他の場所でもない大韓民国で生まれてここで、小中高校の過程をすべて履修して韓国社会の構成員として活動するのに必要な規範や知識、文化を習得してきた点などを考慮すると、本件でただ不法滞在、不法就労の事実のみをもって原告に「反社会性」があると烙印を押すことは過度な側面が存在し、その延長線で上の法理上の「韓国国民の保護の必要性」もまた顕著に低いという他はない事案である。
 より根本的には、本件原告のように適法に大韓民国で出生したが、その両親が在留資格を喪失したことで在留資格を失った者に対する人権的、人道的、経済的観点からの典型的なアクセスが必要である。
 まず、原告のように大韓民国で出生して現在まで事実上ただ大韓民国のみをその地域的、社会的土台として生きてきた者をとにかく他の国へ出て行けと追い出すことは、人間の尊厳性を守護し、生存権を保障しなければならない文明国家の憲法精神に反する。
 特に、国家間の交流活性化として外国人労働者と留学生が多く流入し、これによって正しい多文化社会の正立または国家的課題として台頭するようになった現時点ではよりそうである。外国人であったとしても大韓民国社会内で普遍的人権の主体であり、経済的、社会的、文化的生活の主体としての人格を保障することで究極的な社会統合を図る必要性があり、出入国管理行政で考慮しなければならない公益的価値に国家の安全保障だけでなく、外国人の人権と社会統合という価値も大切に取り扱うようにならなければならない必要性があるといえる。すなわち、大韓民国は国内で社会的基盤を形成した原告をして人間らしい生活を享有し、国内に滞在できるようにその基本的人権を保障する義務があるといわなければならない。
 さらに、大韓民国で小中高校の正規教科過程をすべて理由した原告を強制的に追い出すことは我が国の立場からも経済的、人的被害を負うことと異なるところがない。すなわち、先に言及したところのように12年の正規教育課程をとおして韓国社会構成員として十分に役割を果たすことができるように成長した原告を今になって追い出すのはそれに投資した時間と費用、努力を勘案すると大きな損失というほかないためである。今後、韓国政府が原告のような事案で国籍まではそうでないとしても在留資格を付与することができるように法を作る必要性が大きいと考えられるのはそのためである。すなわち、とにかく追い出すよりはどうにかして原告を活用して韓国社会に加えるようにするアクセスが必要である。
 被告は、本件で原告の請求を受け入れると今後多くの不法滞在者について在留資格を付与するようになる状況が発生すると主張し、その主張の内容に耳を傾ける部分がなくはないが、これまで現実化していないそのような仮定的な憂慮のみで本件で保護されなければならない原告の基本的人権を無視することはできず、被告の主張のそのような憂慮は出入国行政や関連法令の補完、整備などをとおして相当部分解決することができる可能性が十分に存在する。
 上のように本件強制退去命令は違法なので、本件強制退去命令が適法であることを前提とする本件保護命令も当然に違法である。
 そうすると、原告の請求は理由があるので、これを認容することにし、主文のように判決する。

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