2018年5月18日金曜日

緊急措置第9号の罪が違憲無罪となった場合に旧反公法違反で有罪とできるか(大邱地方法院2018年4月25日判決)

 本件は、緊急措置第9号が違憲無効とされたことから、無罪の再審を求めたのに対し、観念的競合関係にある旧反公法違反の罪で有罪とすることができるかが争われた事件です。
 被告人は、酒に酔った状態で警察官に対して韓国政府を批判し、北朝鮮と統一した方がよいという内容の発言をしたのですが、このことが韓国よりも北朝鮮が優れているという北朝鮮を讃える発言に当たるとして、緊急措置第9号違反で有罪とされていました。
 緊急措置とは大統領に与えられた緊急命令権に基づくもので、非常時において大統領の権限で国民の権利を制限することができるものです。緊急措置第9号自体は1979年に解除されていますが、2013年になって初めて緊急措置第9号が違憲無効であると裁判所で判断されました。
 一方、反公法とは1961年に制定された法律で、1980年に国家保安法に統合されて廃止されましたが、共産主義団体への加入や共産主義に便宜供与する行為を禁止する法律です。被告人の発言は、緊急措置第9号に違反すると同時に旧反共法にも違反する行為なので、緊急措置第9号が違憲無効であっても、旧反共法で有罪となる可能性がありました。
 裁判所は、再審とは公訴事実の有無について審理をするもので、緊急措置第9号の違憲無効が再審事由であるとしても、公訴事実が他の刑法犯に当たるのであれば有罪を認定することができるとしました。しかし、検察が起訴した内容では反共法違反に当たるとは言えないとし、有罪の立証がないとして無罪としました。
 以下は、判示の一部抜粋です。

 本件公訴事実は、「被告人が警察官にした発言が流言飛語を捏造、流布すると同時に北朝鮮を讃え、同調して反国家団体を利するようにした」というものであるが、被告人が行った上の行為は一つの行為が数個の罪(緊急措置第9号違反の罪および旧反共法違反の罪)に該当するいわゆる「観念的競合関係」にある。観念的競合は一つの行為で数個の犯罪が実現されるものであるが、これは単に刑罰法規が競合するもので、どこまでも一つの行為に過ぎない。
 ところで、再審は有罪の確定判決に対する事実認定の不当を是正する非常救済手続きで、再審裁判所は確定判決の「犯罪事実」について再審を開始するものであって、その事実に対するそれぞれの「法的評価」について再審を開始するものではない。同様に本裁判所が本件に関して再審を開始したのは、被告人に対する上の公訴事実について再審を開始したものであって、緊急措置第9号違反という法的評価について再審を開始したとはいえない。
 大法院は「競合犯関係にある数個の犯罪事実を有罪と認定して一つの刑を宣告した確定判決でその一部の犯罪事実についてのみ再審請求の理由があるものと認められる場合には、再審裁判所は再審事由がない犯罪事実の部分について再び審理を経て有罪認定を破棄することができない」と判示している。上の大法院の判決の趣旨は、実体的結合関係にある複数の犯罪事実のうち一部の犯罪事実について再審事由が存在して再審が開始された場合、再審開始決定は形式的には一つの刑が宣告された判決に対するものであって、再審事由がない他の犯罪事実の部分については量刑に関する審理以外に有無罪の実体判断は再び審理して変更することができないというものである。しかし、上の大法院の判決はどこまでも実体的結合犯の関係にある事案についてのもので、厳格に解釈しなければならず、本件のように一つの犯罪事実について数個の犯罪が実現して、その法的評価のみを異にする観念的競合関係にある場合には、上の法理をそのまま適用することができないといわなければならない。
 結局、被告人の行為が緊急措置第9号違反の点と同時に旧反共法違反の点で評価されたとしても、本裁判所が本件公訴事実について再審を開始した以上、その審判範囲は当初の再審事由があると判断した緊急措置第9号の点についてのみに限定されるとはいえない。したがって、本裁判所は旧反共法違反の有無罪に関する実態判断についても審理することができるというのが妥当である。
 しかし、上の公訴事実に記載された被告人の発言内容をみると、当時の大韓民国の政治状況など時事的な関心事について個人的な意見を酒に酔った状態で不平を言った程度に過ぎないといえ、被告人が上のような発言をしたという事実のみでは客観的に反国家団体の利益になったり、国家の存立、安全を脅かしたり、自由民主的基本秩序に危害を与える具体的で明白な危険性があったと断定することが難しい。更に、被告人は検察の被疑者尋問の当時「北朝鮮を讃え、宣伝するためにそのように話したのではない」という趣旨の陳述をしている点などに照らしてみると、被告人に主観的に反国家団体に利益を与えるということに対する認識があったといえず、他にこれを認める証拠がない。
 したがって、この部分の公訴事実のうち旧反共法違反の点は、犯罪事実の証明がない場合に該当する。

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