2018年5月8日火曜日

韓国に住所がない者の後見開始が認められた事例(ソウル家庭法院2018年1月17日決定)

 本件は韓国に住所がない外国人(韓国籍を喪失して外国人になったようです)に対して、諸事情を考慮して韓国内に居所があるとして韓国での限定後見(日本の保佐に該当します)の開始を認めたものです。
 普通に生活をしていると住んでいるところが住所になるのですが、定住していない人は住民票に書かれた住所が本人の住所になるというわけではなく、今とりあえず住んでいるところが居所になり、居所が住所とみなされるようになります。懲役刑で刑務所にいる人は刑務所に住んでいるわけではないので、刑務所は居所にすぎないということです。
 本件は、本人が韓国内に住所がなかったのですが、どこか特定はできないが韓国内で生活しているのは間違いないとして韓国内に居所があるとし、韓国の裁判所に国際管轄を認めました。また、準拠法は原則は本人の本国法が適用されるのですが、緊急の必要性があるとして韓国法の適用を認めました。
 なお、日本では「法の適用に関する通則法」第35条第2項第2号により日本で後見開始の審判等をする場合は日本法が適用されるので、諸事情を考慮することなく日本法が適用されることになります。
 後見制度は本人を保護するための制度ですが、本人にとっては自分の権利が制限されるわけですから、できれば後見開始を認めてもらいたくないという思いがあって国際裁判管轄が争われたと思われます。しかし、韓国に国際裁判管轄権がないと主張できる程度に判断能力があるのであれば、後見人を定める必要はないような気もします。
 以下は、判示の一部抜粋です。

 事件本人に対する限定後見開始及び限定後見人選任を求める本件について、事件本人は、自分は大韓民国に居所を置く外国人ではないので、大韓民国の裁判所には国際裁判管轄がなく、大韓民国の民法が準拠法として適用される余地がないので本件申請は不適法として却下されなければならないという趣旨で本案前の抗弁をしている。
 記録によると、2011年6月17日に事件本人が大韓民国の国籍を喪失し、2017年ごろ大韓民国で事件本人の外国人登録が抹消された事実は認められるが、一方、本裁判所のソウル出入国管理事務所長に対する事実照会の回答の結果などの記録および審問全体の趣旨によって認められる次のような事情、すなわち、事件本人は大韓民国の国籍を喪失した以降も主に大韓民国に居住してきて(事件本人は国籍喪失以降に大韓民国以外の地域で20日以上滞在した事実がない)、2017年10月12日に大韓民国に入国してから現在まで大韓民国に居住しているところ、そうであれば事件本人は少なくとも大韓民国に居所がある外国人に該当するといえる。また、事件本人はソウル所在の土地および地上商業施設の各2分の1の持分を保有するなど大韓民国内で財産を所有しているだけでなく、上の商業施設などに関する賃貸借契約を締結したり、金融機関から金員を借用するなどの法律行為をしており、現在大韓民国内で配偶者であるEとの間で離婚訴訟を進めており、父である故Dの死亡によってその相続と関連した法律的紛争の当事者になる可能性が高いといえるところ、そうであればこれは被後見人を保護しなければならない緊急の必要性がある場合に該当する。
 したがって、大韓民国に居所がある事件本人に対する限定後見開始および限定後見人選任を求める本件に関しては国際私法第48条第2項第3号によって大韓民国の裁判所が国際裁判管轄をもち、大韓民国の民法が準拠法として適用され、これに反する事件本人の本案前の抗弁は理由がない。 

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