2017年11月10日金曜日

社長が自分の会社を騙すことができるか(大法院2017年8月29日判決)

 この事件は、法人の代表者が研究員に人件費を支払うように装って法人から金銭を引き出したことに対し、検察は法人を欺罔したとして詐欺罪で起訴したところ、裁判所は法人を欺罔するとは法人の代表者をだますことであり、法人の代表者本人が法人の代表者をだますことはできないので詐欺罪は成立しないとしたものです。
 当然といえば当然の結論ですが、では、本来研究員に支払うべきお金を自分のものにしてしまった行為はどのような罪になるのでしょうか。
 本件では、研究員が支払われたお金をそのまま被告人に渡すように約束させられていたようで、一旦は研究員にお金が支払われているので横領罪の成立は難しそうです。
 ただ、この人件費は産学協力団からの補助金なので、今後、法人が産学協力団に補助金を返還をしなければならなくなるとすると補助金相当額の損害が法人に発生するので、背任罪が成立するのかなと思いました。
 以下は、詐欺罪が成立しないとする部分の要約です。


 詐欺罪は、他人を欺罔して錯誤に陥れ財物を交付されたり財産上の利益を得ることによって成立するので、欺罔行為の相手方または被欺罔者は財物または財産上の利益を処分する権限がなければならない。詐欺罪の被害者が法人や団体である場合に欺罔行為があったかどうかは法人や団体の代表など最終意思決定権者または内部的な権限委任などに従って実質的に法人の意思を決定し処分する権限を持っている者を基準として判断しなければならない。被害者である法人や団体の代表者または実質的に意思決定をする最終決裁権者など欺罔の相手方が欺罔行為者と同一であったり、欺罔行為者と共謀するなど欺罔行為を知っていた場合には欺罔の相手方に欺罔行為による錯誤があるとはいえず、欺罔の相手方が財物を交付するなどの処分をしたとしても欺罔行為と因果関係があるとはいいがたい。このような場合には事案によって業務上横領罪または業務上背任罪などが成立することは別として詐欺罪が成立するとはいいがたい。

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