2018年6月4日月曜日

韓国で生まれ育った外国人を強制退去させることの是非(清州地方法院2018年5月17日判決)

 本件は、ナイジェリア人の両親が在留資格を喪失したことで、家族同伴ビザで在留していた原告の在留資格を失った原告が、在留資格がないにもかかわらず仕事をしていたという理由で強制退去命令を受けたものです。
 原告は、国籍はナイジェリア人ですが韓国で生まれ育ち、韓国語以外は話せないという事情があり、国外追放になると生活することができないことから強制退去命令の取消を求めていました。
 出入国管理局は、原告の強制退去命令の取消を認めると他の不法滞在者にも在留資格を与えなければならなくなると主張しましたが、裁判所は韓国で生まれ育った原告に在留資格を認めないことが韓国国民の保護に資するとはいえないだけでなく、原告の人権を保障する観点から強制退去は違法であるとしました。
 法律を厳密に適用すると外国籍しかない者が在留資格を持っていないのであれが国外退去を命じなければならないのかもしれませんが、その国で生まれ育ち、その国の言葉しか話せない者に国外退去を命じることは、やはり人道的な点から許されないと思われます。
 以下は、判示の一部抜粋です。

2018年5月31日木曜日

山で自生しているシイタケを採ると罪になるか(大邱高等法院2018年5月11日判決)

 本件は、被告人が他人が所有する山に自生するシイタケ(890グラム相当)を採って帰ろうとしたことが山林資源法違反に当たるとして30万ウォンの罰金を命じられたことを不服とし、控訴したものです。
 被告には、山林資源法は自生する産物を持って帰ることまで処罰の対象にしていないと主張しましたが、裁判所は人為的に栽培しているか自生しているかにかかわらず他人の山から産物をもってかえることは山林資源法第73条第1項の処罰対象になるとしました。
 他人の山から自生しているキノコなどを持ってかえる行為は森林窃盗といい、日本では森林法第197条で3年以下の懲役または30万円以下の罰金と定められています。これは窃盗罪の一種ですが、山で生えている植物などは持って帰りやすいなどの理由で窃盗罪に比べて軽い刑となっています。
 これに対し、韓国では森林窃盗は5年以下の懲役または5000万ウォン以下の罰金となっており、窃盗罪(6年以下の懲役または1000万ウォン以下の罰金)とあまり変わりがなく、結構重い罪になっています。
 本件では被告人は30万ウォンの罰金が重すぎるとも主張しているようですが、山に入れないようにしている冊を乗り越えてシイタケを取っているという点を裁判所は重く見て、罰金の額を決めたようです。
 以下は、判示の一部抜粋です。

2018年5月29日火曜日

製作物供給契約に基づく代金請求権の消滅時効の起算点(大邱高等法院2018年5月11日判決)

 本件は充電器5000個を製作した会社から代金請求権を譲り受けた原告が、契約の相手方である被告に対して代金の支払いを求めたものです。
 被告は本件契約は売買契約なので売買代金の請求権の消滅時効の起算点は契約時である2014年5月7日であるとし、短期消滅時効である3年が経過しているので代金を支払う義務がないとしました。
 これに対し、裁判所は、製作物供給契約の性質は契約の目的物が代替物であれば売買契約、不代替物であれば請負契約の性質を持つとし、本件契約の目的物は不代替物なので請負契約であり、目的物が完成した2016年1月12日が起算点となるとしました。そして、短期消滅時効が成立する前に訴訟を提起しているので、代金は時効により消滅していないとしました。
 製作物供給契約の性質についてはいろいろな学説がありますが、目的物の瑕疵担保の問題として売買なのか請負なのかが問題になっていたようです。というのも、代金をいつ支払うかついては普通は契約書に書かれているので、代金請求権の消滅時効の起算点が問題になることはないからです。本件は代金の支払い日が決められていなかったことから、売買か請負かによって代金を請求できる時期が変わってくるので、製作物供給契約の性質をどのように考えるかを裁判所が判断しました。
 以下は、判示の一部抜粋です。

2018年5月28日月曜日

私有地を通らせないことが往来妨害罪になるか(仁川地方法院2018年5月10日〕

 本件は私有地を通らせないようにフェンスを設置した行為に対して、往来妨害罪が成立するとして罰金200万ウォンを命じたものです。
 これに対し、弁護人はフェンスを立てた土地は被告人が所有する私有地であり、他に通る道があるのだから往来妨害罪は成立しないと主張しましたが、問題となった土地が明日アルトで舗装された道路であり、長い間周辺の住民が道路として使用していたことを根拠として往来妨害罪の成立を認めました。
 私有地なのに通ると便利だからという理由で近所の人が勝手に通っているということは珍しいことではなく、そのような場合でも通行量が少なければ所有者もとやかく言わないのですが、開発などが進んで住人が増えて通行量が多くなると私有地だからという理由で通行止めにし、近所の人とトラブルになることがあります。
 原則としては土地の所有者は所有権に基づいて勝手に通行できないようにすることができるので、近所の人が慣習的に道路として使っているというだけでは通行止めができないようにすることはできませんが、本件は道路がアスファルトで舗装されているということで何らかの道路として指定されている可能性があり、そうすると私有地だという理由で通行止めにすることはできないと考えられます。
 以下は、判示の一部抜粋です。
 被告人と弁護人は、被告人が鉄筋構造のフェンスを設置した本件土地が個人私有地で、公道に出入りすることができる他の道路が存在するので、これは「陸路」に該当せず、一般交通妨害罪が成立しないという趣旨の主張をしている。刑法第185条の一般交通妨害罪は一般公衆の交通の安全を保護法益とする犯罪で、ここで「陸路」というのは一般公衆の往来に共用されている場所、すなわち特定人に限らず不特定多数人または車馬が自由に通行できる公共性をもつ場所をいい、陸路と認められる以上その敷地の所有関係や通行権利関係または通行人の多少を問わない。検事が提出した証拠を総合すると、被告人が鉄筋構造物のフェンスを設置した土地はたとえ個人の私有地であるとしてもアスファルトで舗装された道路であって、長い間周辺の住民が通行路として利用してきた事実が認められるところ、そうであれば本件土地は「不特定多数人または車馬が自由に通行できる公共性をもった場所」として刑法第185条の「陸路」に該当するというのが妥当である。

2018年5月23日水曜日

ビザ発給拒否処分の取消を求めることができるか(大法院2018年5月15日判決)

 本件は、原告が配偶者ビザ(F-6)の申請が拒否されたのに対して拒否処分の取消訴訟を提起したところ、そもそも原告に訴訟を提起する資格があるかどうかが問題となりました。
 これについて、原審は申請者である原告には当然に取消訴訟を提起する資格があるとしました。しかし、大法院はビザ発給拒否の取消を求める訴訟は、結局のところ韓国に入国させてほしいという主張であるが、外国人には韓国に入国する自由がないので、韓国の裁判所に韓国に入国することを認めてほしいという訴訟を提起する資格がないとし、訴訟そのものを却下しました。
 外国人に入国を求める権利がないというのはどの国でもそうなのかもしれませんが、外国で仕事をするためにビザを申請していた立場としては、ビザが発給されなかったときに争うこともできずに諦めなければならないというのは、なかなか納得できません。
 また、日本でも外国人を雇用しようとしていた会社が就労ビザの発給を拒否されたことでその取り消しを求めて訴訟を提起したものがありますが(東京地裁2010年7月8日判決)、この裁判では原告適格ではなく処分性が争点となり、ビザの発給拒否処分は行政処分に当たらないとして取消訴訟を却下しています。
 ビザは入国許可証ではなく、入国するための書類の一つにすぎないので、ビザの発給が行政処分に当たらないという理屈は分かりますが、ビザが発給されなければ入国も認められないので、ビザの発給の拒否処分を争えなければ申請者は保護されません。
 しかし、そもそも外国人は入国する権利がないのだから裁判所に入国を認めるように裁判を提起することができず、そうすると行政処分でないビザの発給に処分性を認める意味がないということなのかもしれません。
 以下は、判示の一部抜粋です。

2018年5月18日金曜日

緊急措置第9号の罪が違憲無罪となった場合に旧反公法違反で有罪とできるか(大邱地方法院2018年4月25日判決)

 本件は、緊急措置第9号が違憲無効とされたことから、無罪の再審を求めたのに対し、観念的競合関係にある旧反公法違反の罪で有罪とすることができるかが争われた事件です。
 被告人は、酒に酔った状態で警察官に対して韓国政府を批判し、北朝鮮と統一した方がよいという内容の発言をしたのですが、このことが韓国よりも北朝鮮が優れているという北朝鮮を讃える発言に当たるとして、緊急措置第9号違反で有罪とされていました。
 緊急措置とは大統領に与えられた緊急命令権に基づくもので、非常時において大統領の権限で国民の権利を制限することができるものです。緊急措置第9号自体は1979年に解除されていますが、2013年になって初めて緊急措置第9号が違憲無効であると裁判所で判断されました。
 一方、反公法とは1961年に制定された法律で、1980年に国家保安法に統合されて廃止されましたが、共産主義団体への加入や共産主義に便宜供与する行為を禁止する法律です。被告人の発言は、緊急措置第9号に違反すると同時に旧反共法にも違反する行為なので、緊急措置第9号が違憲無効であっても、旧反共法で有罪となる可能性がありました。
 裁判所は、再審とは公訴事実の有無について審理をするもので、緊急措置第9号の違憲無効が再審事由であるとしても、公訴事実が他の刑法犯に当たるのであれば有罪を認定することができるとしました。しかし、検察が起訴した内容では反共法違反に当たるとは言えないとし、有罪の立証がないとして無罪としました。
 以下は、判示の一部抜粋です。

2018年5月17日木曜日

医療ミスで入院が長引いた患者に治療費を請求できるか(大法院2018年4月26日判決)

 本件は、医療ミスで患者の入院が長引いたのに対し、病院から患者に対して診療費等の請求がなされたものです。
 本件の特殊な事情としては、この患者は医療ミスがあった病院で再手術をし、そのまま入院し続けているということ、医療ミスについては損害賠償請求訴訟を提起し、判決が確定しますが、その訴訟では当然に予想される入院費用の請求をしていなかったということです。
 原則としては、患者は病院に対して診療費等を支払わなければならないとしても、その費用は病院から損害賠償として支払われるということになり、結果的に相殺されることになるので、診療費等を支払う必要はありません。しかし、もし、損害賠償請求をしておらず、既判力によって損害賠償請求ができないのであれば、患者は病院に診療費等を支払わなければならないでしょう。
 本件では、裁判所は医療ミスを犯した病院が診療を続けるのは損害の填補として当然に行わなければならないものとして、診療を行ったとしても費用を請求することはできないとしました。
 結論としては妥当なのかもしれませんが、この理屈で言うと、患者は医療ミスを犯した病院に入院し続けると無料で診療を受けることができるので、診療費等の費用が発生しないということになり、診療費等相当額の損害を請求することができなくなりそうです。
 以下は、判示の一部抜粋です。

2018年5月9日水曜日

有料道路のゲートを不正に通過した事件(仁川地方法院2018年5月1日判決)

 本件は、有料道路のゲートをハイパス(日本のETCカードに該当)を使わずに不正に通過したことが、便宜施設不正利用罪に当たるとして有罪になった事例です。
 日本でも同じですが、機械を誤作動させて財産上の利益を得る行為は、機械は錯誤に陥ることがないという理由で詐欺罪が成立せず、自動販売機から商品を無料で持っていくなど窃盗罪に当たる場合でなければ刑法犯にはなりませんでした。
 人をだますのも機械を誤作動させるのも同じ犯罪であるという観点から、日本では電子計算機使用詐欺、韓国ではコンピュータ等使用詐欺と便宜施設不正利用という罪が刑法に追加されました。
 日本の場合はコンピュータを誤作動させた場合にのみ刑法が適用されるので、例えば、有料道路のゲートを前の車にくっついて通過した場合などはコンピュータを誤作動させたわけではないので電子計算機使用詐欺に当たりません。韓国ではこのような場合も刑法で処罰できるように便宜施設不正利用という罪も創設しました。
 なお、日本では有料道路のゲートを不正に通過して料金を支払わずに有料道路を通過した場合は道路整備特別措置法第24条第3項後段、第59条により30万以下の罰金となります。
 以下は、判示の一部抜粋です。
 誰であっても不正な方法で対価を支払わずに自動販売機、公衆電話その他有料自動設備を利用して財物または財産上の利益を取得してはならない。
 それにもかかわらず、被告人は2016年5月15日ごろ仁川以下不詳地にある被害者韓国道路公社が管理する有料通行区間でハイパス端末機を設置しない状態で乗用車を運転して料金所を通過する方法で900ウォン相当の財産上の利益を取得したことをはじめとして、別紙犯罪一覧表記載のようにその頃から2017年7月6日までの間に803回にわたって上のような方法で通行料を合計908,440ウォン相当を支払わないことによって同額相当の財産上の利益を取得した。

2018年5月8日火曜日

韓国に住所がない者の後見開始が認められた事例(ソウル家庭法院2018年1月17日決定)

 本件は韓国に住所がない外国人(韓国籍を喪失して外国人になったようです)に対して、諸事情を考慮して韓国内に居所があるとして韓国での限定後見(日本の保佐に該当します)の開始を認めたものです。
 普通に生活をしていると住んでいるところが住所になるのですが、定住していない人は住民票に書かれた住所が本人の住所になるというわけではなく、今とりあえず住んでいるところが居所になり、居所が住所とみなされるようになります。懲役刑で刑務所にいる人は刑務所に住んでいるわけではないので、刑務所は居所にすぎないということです。
 本件は、本人が韓国内に住所がなかったのですが、どこか特定はできないが韓国内で生活しているのは間違いないとして韓国内に居所があるとし、韓国の裁判所に国際管轄を認めました。また、準拠法は原則は本人の本国法が適用されるのですが、緊急の必要性があるとして韓国法の適用を認めました。
 なお、日本では「法の適用に関する通則法」第35条第2項第2号により日本で後見開始の審判等をする場合は日本法が適用されるので、諸事情を考慮することなく日本法が適用されることになります。
 後見制度は本人を保護するための制度ですが、本人にとっては自分の権利が制限されるわけですから、できれば後見開始を認めてもらいたくないという思いがあって国際裁判管轄が争われたと思われます。しかし、韓国に国際裁判管轄権がないと主張できる程度に判断能力があるのであれば、後見人を定める必要はないような気もします。
 以下は、判示の一部抜粋です。

2018年5月2日水曜日

子の返還請求が認められなかった事例(大法院2018年4月17日決定)

 本件は、日本で生活していた韓国人女性が夫の暴力に耐えられず子供2人をつれて韓国に帰国したのに対し、日本人の夫がハーグ条約に基づいて子の返還請求をしたのに対し、子供らは暴力を目撃したことで精神的な苦痛を経験していることから、子供らだけを日本に帰した場合に感じる精神的な苦痛を考慮し、子の返還を認めなかったものです。
 離婚した場合に子の取り合いになることは珍しい話ではなく、特に国際結婚が破たんした場合は、それぞれの国に帰ってしまうと子に会えなくなる可能性が高くなるので、自分の手元に置いておきたいという気持ちが強くなります。
 本件は、父親が子供に暴力を振るっていたわけではありませんが、子供が母親が暴力を受けるのを見ていたことも父親の子供に対するDVがあったとして、返還請求を認めなかったということなのかもしれませんが、子の福利を考えるときに過去の問題を重要視してしまうと、離婚の原因を作った側の親は子を取り返すことができなくなる可能性が高くなってしまいます。
 また、韓国だけでなく日本も同じですが、子供は母親が育てた方がよいという認識が今でも強く残っているような気がします。
 以下は、判示の一部抜粋です。

2018年4月24日火曜日

電子ファイルとその出力物の同一性(大法院2018年2月8日判決)

 本件は、電子ファイルの状態で作成された売上記録を変造して脱税したとされた裁判において、問題となった売上記録を証拠として裁判所に提出する際に紙にプリントアウトして提出しましたが、このプリントアウトされた売上記録の内容と、USBに保存されている電子ファイルの内容が同じものであるかどうかが問題となりました。
 USBに保存されている電子ファイルの内容とプリントアウトされたものが同じ内容でないとすると、裁判所に提出された紙の記録は証拠にならないことになりますが、これらが同じものであるということは検察に証明責任があります。本件では、検察の証明が十分でないとして裁判所に提出された紙の記録に証拠能力がないとし、有罪を認めていた原審に差し戻しを命じました。
 電子ファイルの状態のものを紙にプリントアウトしたときに、そのプリントアウトされたものが電子ファイルの写しなのか、紙にプリントアウトされたものが原本なのかという問題もあり、そもそも電子ファイルとは何なのかという根本的なところから考えなければなりません。もっとも、原本は手書きで写しも手書きしかなかった頃は、原本と写しは明らかに区別することができましたが、原本をワープロで作成して写しをコピー機で作成すると、原本と写しを区別することができません。原本と写しの区別をすること自体が時代に合わなくなっているのかもしれません。
 以下は、判示の一部抜粋です。

2018年4月19日木曜日

株式交換に適用される税法の条文(大法院2018年3月29日判決)

 本件は、完全子会社化するために実施された株式交換において、完全子会社となる会社ん株式が過大に評価されているとして税務当局が子会社になる会社の株主に対して贈与税を賦課したのに対し、大法院が適用する条文が誤っているとして原審に差し戻したものです。
 交換は、日本の民法では「当事者が互いに金銭の所有権以外の財産を移転すること」とされていますが、「売主が物を売り、その代金で買主から物を買う」行為であると見ることもでき、まさに株式交換は「所有している株式を売却し、現金を受取り、その金銭で新たな株式を購入する」行為とみなしているので、原則として子会社になる会社の株主には譲渡税が発生することになります。
 本件の原審もこのような考えにもとづいて子会社になる会社の株式が過大評価されていた場合には、子会社になる会社の株主が「財産を高価で譲渡した」場合の条文が適用されるとしましたが、大法院は株式交換は完全子会社化のためのテクニックなので「法人の資本を増加させる」場合の条文を適用すべしとしました。
 以下は、判示の一部抜粋です。

2018年4月18日水曜日

支払利息が取得税の課税標準に含まれるか(大法院2018年3月29日判決)

 本件は、不動産を取得する時期に借り入れた資金に関する支払利息が当該不動産の取得税を計算するための課税標準に含まれるかが問題となった事件で、原審は支払利息が当然に課税標準に含まれるとしましたが、大法院は、借入資金が不動産の取得のために使われたのかどうかについて課税官庁に証明責任があるが、十分な証明がされていないとして原審に差し戻しました。
 法律の勉強をしていても、税法は範囲が広いだけでなく、通達などによって運用されているところが多く、弁護士には難しい分野です。しかし、詳細には知らなくても大まかなことは知っておかなければ、依頼者に過大な税金が賦課されたり、税金がかかることを知らないまま放置して加算税が賦課されたりする危険もあるので、勉強しつづけることは大切だと思います。
 以下は、判示の一部抜粋です。

2018年4月16日月曜日

LGBTイベントのために公園を使用できるか(済州地方法院2017年10月27日判決)

 本件は、LGBTのイベントを行うための公園の使用許可及びイベントのブースを設置するための占有許可を一度は承認したにもかかわらず、周辺住民からの反対の声が上がったことを理由に許可を撤回したのに対し、撤回の効力の停止処分を求めたものです。
 LGBTのイベントというと性的なイメージがあるため、青少年に悪影響を与えるのではないかと周辺の住民の方が心配になるのは理解できます。しかし、そのようなLGBTに対するイメージを払拭するためにイベントを行っているのですから、周辺の住民の方の反対があるからという理由でイベントをさせないようにするのは間違っているといわざるを得ません。
 憲法は国民が守るものではなく、政治家が守るものであるという言い方をすることがありますが、憲法というのは法律を作るときや解釈をするときの基準になるものなので、法律を作ったり解釈する機会のない人にとっては憲法を守らなければいけない状況にならないだけで、他人の権利を尊重するという姿勢は守らなければなりません。
 社会の中では常に権利と権利とが衝突し、その調整が必要とされています。他人の権利を尊重するというのは、自分の権利が侵害されてもいいから他人の権利を認めるということではなく、自分の権利と他人の権利が衝突したときに自分の権利のみを主張するのではなく、憲法に基づいた権利の調整に従うという姿勢が大切なのではないかと考えます。
 以下は、判示の一部抜粋です。

2018年4月10日火曜日

被相続人の退職年金を受領すると単純承認になるか(蔚山地方法院2018年3月29日)

 本件は、相続人が相続放棄をしたのに対し、被相続人の債権者が「相続人が被相続人の会社から退職金や退職年金などを受領した行為が相続財産の処分行為に該当し、単純承認とみなされる」と主張し、相続人に対して借金の返済を求めた事案です。
 相続人が被相続人の債権を執行する行為は相続財産の処分行為に当たり、単純承認をしたとみなされるのが原則です。
 しかし、裁判所は相続人が被相続人の扶養家族であり、まだ学生であったこと、退職金の2分の1に該当する金額や退職年金は差押え禁止財産であること、相続人が受領した金額は差押え禁止財産の範囲内であることを理由に、退職金や退職年金を受領した行為は相続財産の処分行為に当たらないとしました。
 相続人が債権を取り立てる行為が相続財産の処分行為に当たるというのは日本の判例にもありますが(最高裁昭和37年6月21日判決)、今は給与が現金払いされることがなくなったり、通常は現金は銀行に預けておくようになったりしているので、給与債権や預金債権を現金化することを債権を取り立てることと同一視すべきでないと考えます。
 また、相続財産が現金として手元にある場合にその中から葬式代を出すことは相続財産の処分に当たらないのに、銀行に預けてある場合にはその中からら葬式代を出すと相続財産の処分に当たるとするのは変だと思うのが常識的な判断と思われます。
 本件は、葬式費用を出すために退職金などを受領した行為を相続財産の処分に当たるとして単純承認とみなすと多額の借金を背負うことになるという事情を踏まえて、単純承認に当たらないとしたと思われます。理由は疑問がありますが、結論は妥当と思います。
 以下は、判示の一部抜粋です。

2018年4月9日月曜日

在留資格の変更が認められなかった事例(蔚山地方法院2018年3月29日判決)

 本件は、外国人労働者が事業場の変更をする場合は労働契約の終了日から1ヶ月以内に申請しなければなりませんが、労働契約の終了日が当初の労働契約の終了日なのか、更新した労働契約の終了日なのかが争いとなった事件です。
 裁判所は、使用者が労働契約を更新するときに届出をしなかったので、労働契約は当初の終了日に終了しているとし、在留資格の変更を認めませんでした。
 労働契約自体は労働者と使用者の合意によって決まるので、労働契約を両者が合意して更新した場合は、労働契約の終了日は更新した労働契約の終了日になると考えるべきだと思います。
 しかし、在留資格の変更は在留資格を有するものだけに認められるもので、労働契約の終了日から1ヶ月以内に事業場の変更を申請するようになっているのは、労働契約が終了した在留資格の基礎となる事実が消滅しても、それから1ヶ月以内であれば変更を認めるという趣旨だと考えられます。そうすると、使用者が労働契約の更新を届け出なかったときは、外国人労働者の在留資格が消滅するので、在留資格の変更が認められないという結論自体は妥当であると考えます。
 外国人が就労ビザを取るのは使用者にとっても手続きが面倒ですが、使用者のミスによって働きたいのに働けなくなるというのはかわいそうだと思いました。
 以下は、判示の一部抜粋です。

2018年4月6日金曜日

取引の相手方が問題となった事例(大法院2018年1月25日判決)

 本件は、軽食のフランチャイズ加盟店に食材を供給していた食品メーカーが、流通業者から代金を支払ってもらえなかったことから、フランチャイズの加盟本部に対して代金の支払いを求めたものです。
 原審は、加盟本部が食品メーカーの選定や、価格の選定を行っていたこと、流通業者が加盟店から集金して食品メーカーに支払っていたことを理由に、流通業者は加盟本部の手足となって食材の供給をしていただけで、取引の真の相手方は加盟本部であるとして代金の支払いを命じました。
 これに対し、大法院は、食品メーカーが税金計算書を流通業者に発行していたこと、帳簿に取引の相手方として流通業者の名前を記載していたことを理由に、取引の相手方は流通業者であるとして差し戻しを命じました。
 コンビニやスーパーでの買い物とは異なり、会社などの取引では物を渡した後にお金をもらうのが通常なので、物は渡したのにお金がもらえないということがよくあります。売買契約の相手方は、実際に物のやり取りをしている者であるのが原則なので、物を渡した者にお金を請求することになりますが、相手がお金を持っていなければどうしようもありません。そのような場合に、どうにかして他にお金を持っている人からお金をもらおうとすることになります。本件は、まさにそのような場合であったと思われますが、原審では加盟本部に支払い義務を認めているので、必ずしも理由をこじつけてお金をもらおうとしていたのではないのかもしれません。
 以下は、判示の一部抜粋です。

2018年4月5日木曜日

盗品の買主に損害賠償を請求できるか(蔚山地方法院2018年3月23日判決)

 本件は、会社Aに勤務する職員Bが、会社所有の資材を横領し、会社Aに無断でC(会社Dの代表取締役)に販売した事案で、会社Aが原告となり、職員Bだけでなく、C及びDに対しても損害賠償を請求した事件です。
 裁判所は、Bについては損害額の全額を、C及びDについては損害額の80%を支払う義務があるとして、連帯で支払うように命じました。
 本件は盗品の売買に関する事案ですが、原則として資材の所有権は原所有者Aにあるので、即時取得が認められない限り、C及びDが資材をAに返還し、BがC及びDに代金を返還することで解決します。
 しかし、資材が既に使用されていて返還することができないのが通常で、この場合は、C及びDはAに返還するものがなく、Aが資材の価格相当の損害を被るので、AがBに対して損害賠償を請求することになります。もっとも、横領するような者が資産をもっているはずがなく、AはBに損害賠償を請求しても損害額を満足させることができないので、C及びDに請求できるかどうかが問題となります。
 本件は、盗品がどうかを確認すべき注意義務を怠ったと判断しましたが、盗品かどうかを確認すべき注意義務の根拠は明らかにされていません。通常の取引では、そのような注意義務があるとは思えませんが、本件は、販売価格が原価を下回っていたこと、1年以上にわたって売買していたことなど、Cが本件資材が盗品であることを知っていたであろうことを推定させる事実があったことから、過失による不法行為を認めた事例判断であると思われます。
 また、今回は連帯責任を認めましたが、B、C及びDの責任割合までは明らかにしていないので、例えばBが全額を支払った場合に、C及びDにどれだけ求償できるかのかということに興味がもたれます。
 以下は、判示の一部抜粋です。

2018年4月4日水曜日

宗教上の理由により兵役を拒否できるか(蔚山地方法院2018年3月6日)

 本件は、信仰している宗教の教えに従って兵役につくことを拒否したことについて、兵役法違反に当たらないとして無罪を宣告した事件です。
 韓国は徴兵制があり、兵役法88条第1項の規定により、現役入営通知書を受けた者が正当な理由なく入営日から3日以内に入営しない場合には3年以下の懲役に処されることになります。正当な理由については例示がありませんが、裁判所は、物理的な理由で入営できない場合に限らず、憲法で保障された権利にもとづいて、かつ、兵役法の立法目的を毀損しない範囲で兵役を拒否する場合も含むとしました。
 軍隊に入隊して訓練するということは、戦争のための訓練をすることです。戦争のための訓練とは家族を守るための訓練といえば聞こえはいいですが、家族を守るために敵を殺すための訓練であることに違いはありません。
 人を殺したくない、人を殺してはならないと考え、人を殺すための訓練を拒否することは正当な事由であるとした裁判所の判断は妥当であると考えます。しかし、韓国ではこのような良心的兵役拒否により毎年600人程度が有罪となっているそうです。
 以下は、判示の一部抜粋です。

2018年4月1日日曜日

送り状に他人の名前を書くと私文書偽造となるか(大法院2018年1月25日判決)

 本件は、被告人が叔母と叔父を陥れるために、叔母と叔父を送り主として偽物の爆弾を送る際に、送り状に叔母と叔父の名前を書いた行為が私文書偽造になるかどうかが争われた事件です。
 原審は、送り状は刑法上の私文書に当たらないとして無罪としましたが、大法院は送り状は荷物の送り主が誰であるかを証明することができる文書なので、刑法上の私文書に当たるとし、私文書偽造及び行使罪が成立するとしました。
 送り状には住所と名前しか書かれていないのに私文書偽造になるというのは変な感じがしますが、私文書偽造という犯罪が文書の作成者を偽る行為であるとすると、送り状が文書であるとすれば私文書偽造が成立するというのは仕方がないのかもしれません。
 この理屈が成り立つとすると、送り状を使用せずに荷物の箱に直接住所と名前を書いた場合であっても、文書は紙に書かれている必要はないので、嘘の住所と名前を書けば私文書偽造になるということになるのでしょう。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2018年3月30日金曜日

北朝鮮のツイッターをフォローすると国家保安法違反になるか(大法院2018年1月25日判決)

 本件は北朝鮮のツイッターアカウントをフォローしたことが国家保安法第7条(讃揚、鼓舞等)に該当するか争われた事件です。
 結論としては、頒布や頒布の幇助、所持には当たらないとして一部無罪となりましたが、反国家団体に同調している部分は認められて有罪となりました。
 人は生まれる国を選択することができませんが、自分が選択できないことのせいで自分の行動が制限されることがあってはならないというのが基本的人権の根本思想だと考えています。生まれる国は選択することはできないとしても、生活する国は選択することができるのだから、生まれた国が嫌なら出て行けばいいという人もいますが、そのような考え方は多数派の暴力だと思います。
 今は激動の世の中ですが、相変わらず行政文書の改ざんだの、貴乃花の処分だのしかテレビでやらない日本という国は、きっと平和なんだろうなと思われます。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2018年3月29日木曜日

犬鍋にするために犬を殺したことが動物愛護法違反とされた事件(済州地方法院2018年3月22日判決)

 本件は、犬鍋にするために犬を殺した方法が残虐であるとして動物愛護法違反の罪となり、懲役8ヶ月執行猶予2年、保護観察と160時間の社会奉仕を命じられた事件です。
 韓国では夏になると体力をつけるために犬を食べる習慣があって、よくテレビで犬を盗まれたというニュースをやっていました。血統書付きの犬を盗んで食べたのが見つかって何百万円の損害賠償を請求されたというのもありました。
 本件は犬を食べたこと自体が犯罪となったのではなく、犬の殺し方が残忍であったとして動物愛護法違反の罪となりました。スイスではロブスターを生きたままゆでることが法律で禁止されるようになりましたし、食べるために動物を殺すにしても、愛情をもって殺さなければならないということなのでしょうか。
 以下は、判決の一部抜粋です。
 いかなる者も動物に対して道具、薬物を使用して傷害を負わせる虐待行為をしてはならない。
 それにもかかわらず、被告人らは2017年3月25日12時ごろ、済州市にある道路でCから買い入れた犬1匹を被告人Aのオートバイにひもでつないでから被告人Aはオートバイを運転して行き、被告人Bは後ろから乗用車を運転して付いていく方法で上の犬を無理やり連れて行き、上のオートバイについて走って行ったが疲れて倒れた犬を続けて引っ張っていくことで犬の脚や口などに擦過傷などを与えて虐待行為をした。
 いかなる者も首をつるなどの残忍な方法で動物を殺してはならない。
 それにもかかわらず、被告人らは2017年3月25日13時ごろ、済州市にある被告人Aの住居地横の空き地で被告人Aは上のように引っ張ってきた犬の首にひもをつないでそこに設置されていた鉄パイプにかけてから、犬を持ち上げて、被告人Bは横でこれを見守る方法で共謀して上の犬をつるして残忍な方法で犬を殺した。

2018年3月23日金曜日

受刑中の被告人に執行猶予の判決ができるか(仁川地方法院2018年2月22日判決)

 本件は、仁川拘置所に収監されていた被告人が、懲役刑が確定して矯正施設に移されるのが嫌で、自分の住所地に近い拘置所に移動できるように、知人に自分を詐欺罪で告訴させた事件です。これにより、虚偽告訴教唆罪で執行猶予付きの懲役刑となりました。
 懲役刑が確定したからと言って直ちに刑務所に行くわけではなく、しばらくは拘置所にいて、その期間に別の事件で逮捕されたり起訴されたりすると、刑務所ではなく、そのまま拘置所で受刑することになります。被告人は、遠くの刑務所に行ったら家族から面会に来てもらえなくなるので、家の近くの拘置所で受刑できるように策を弄したのだと思われます。
 なお、執行猶予について、韓国の刑法では、禁固以上の刑を宣告した判決が確定したときからその執行を終了したり免除されてから3年までの期間に犯した罪について刑を宣告する場合には執行猶予を付けることができません。
 本件は、被告人が恐喝罪の懲役刑が確定する前に犯した罪なので、被告人が受刑中であっても執行猶予をつけることができました。
 日本の刑法では、前に禁固以上の刑に処されたことがない者、または前に禁固以上の刑に処されたことがあってもその執行を終わった日から5年以内に禁固以上の刑に処されたことがない者は、刑の全部の執行を猶予することができると規定しているので、条文上は懲役刑に処されたことがある被告人には執行猶予を付けることができないように思えます。
 しかし、判例(最高裁昭和28年6月10日判決)は、同時に審判されていたら刑の執行を猶予することができたという理由で、刑が確定する前に犯した罪については執行猶予を付けることができるとしているので、日本でも執行猶予を付けることができます。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2018年3月20日火曜日

性暴力処罰法(カメラ等利用撮影)の適用について(大法院2017年12月28日判決)

 本件は、被害者が自分で撮影した下腹部の写真を被告人に渡したところ、被告人がその写真をSNSにアップしたことが、性暴力処罰法に規定するカメラ等利用撮影に該当するかが争いになりました。
 性暴力処罰法が規定するカメラ等利用撮影は他人の身体を撮影したり、その撮影物を公に展示した場合に処罰することを規定していますが、原審は、他人の身体が撮影された撮影物を展示した場合にも処罰することができると解釈しましたが、大法院は被告人が他人の体を撮影した撮影物を公に展示した場合にのみ処罰するとしか解釈できないとし、被害者が自分の意思で撮影したものを被告人が公に展示した場合は処罰できないとしました。
 日本ではリベンジポルノが問題になったことから2014年に私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律(リベンジポルノ被害防止法)が制定され、性的な写真を不特定多数の者に提供すると処罰されるようになりましたが、撮影対象者が自分で撮った写真であっても第三者が閲覧するつもりでなければ、その写真を不特定多数の者に提供すると処罰されます。本件が日本で発生した事件であれば、リベンジポルノ被害防止法によって処罰されたと考えられます。
 一方、韓国では早い時期から性暴力処罰法を制定して性暴力に対応し、リベンジポルノについても被告人が撮影したものであれば処罰することができます。しかし、リベンジポルノは被害者が自分で撮影した性的写真を渡した後でインターネットなどで公開されてしまうことがよくあるので、これに対応できるように性暴力処罰法の改正が望まれます。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2018年3月19日月曜日

無罪になった場合に起訴が違法であったと慰謝料を請求できるか(釜山地方法院2018年2月21日判決)

 本件は、複数の恐喝、暴行などの事件で起訴された原告が、そのうち3つの恐喝事件について無罪となったことから、検察官が被害者の虚偽の陳述をうのみにして起訴および控訴したとして国に精神的苦痛に対する慰謝料を請求したものです。
 原告は起訴事実の一部が無罪になっただけで、残りの犯罪事実によって有罪の判決を受けているので、身体拘束を受けていた期間に対する補償をうけることはできないことから国家賠償訴訟を提起したものと思われます。
 刑事裁判で無罪になったことだけでは起訴が違法になることはないという判断は、日本では1978年10月20日及び1989年6月29日に最高裁が、韓国では2013年2月15日に大法院が判決の中で述べています。
 検事は有罪か無罪かを判断してもらうために裁判所に起訴することが仕事なので、結果として無罪と判断されたからといって直ちに起訴したことが違法にならないというのはそうなのでしょうが、そもそも罪となる事実がなかったにもかかわらず、そのような事実があると判断して起訴した場合は、少なくとも過失があるように思えます。
 つまり、起訴事実は存在するが、それが刑法上の犯罪にあたるかどうかの判断が検察と裁判所で分かれるということはあるとしても、起訴事実が存在しないのに、検察の収集した証拠から起訴事実が認定できるかどうかの判断が検察と裁判所で分かれるということはありえないだろうということです。
 確かに、裁判所が起訴事実の存在を認めなかったとしても、それは起訴事実が存在しなかったということではなく、検察官の収集した証拠からは起訴事実が認定できないというだけなのでしょう。起訴事実の存否は被告人しか知らないのですから。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2018年3月16日金曜日

正式裁判で略式命令の罰金額を増額できるか(水原地方法院2018年2月19日)

 本件は窃盗で50万ウォンの略式命令を受けましたが、それを不服として正式裁判を請求したところ、正式裁判で罰金額が100万ウォンに増額されたものです。
 略式命令を不服として正式裁判を請求した場合に、罰金額を増額できるかどうかについては、日本では最高裁昭和31年7月5日決定で正式裁判は上訴に当たらないので刑事訴訟法402条に規定する不利益変更の禁止は適用されないとしているので、正式裁判で罰金額を増額できるだけでなく、懲役刑を選択することもできます。
 一方、韓国では2017年12月19日に刑事訴訟法が改正されて457条の2(刑種上向の禁止等)が追加され、正式裁判では略式命令より重い種類の刑を宣告することができないこと、正式裁判で略式命令よりも重い刑を宣告する場合には量刑の理由を明らかにすることが明文化されました。本件は、改正刑事訴訟法が適用されて罰金の額が増額された最初の事例のようです。
 以下は、判決の一部抜粋です。
 被告人は、2017年4月ごろ、他人の建造物に侵入して物を摂取した犯行により罰金70万ウォンの略式命令を受けてからすぐに包装紙の中の内容物を取り換える方法で再び本件窃盗の犯行を繰り返した。被告人は、特に身体に障害があったり、高齢の年齢でもなく、家や自動車を所有しているようであるなど、生計型犯行であるともいえないところ、このように大胆で巧妙な犯行を被害者と示談したという理由のみで善処し続けると窃盗の習癖が改善されないといえる。その他に被告人の年齢、性向および環境、本件犯行の経緯および結果、犯行後の状況などの記録や弁論に現れた量刑の条件となる諸般の事情を総合すると、罰金額(50万ウォン)はかなり軽いといえるので、これを増額して主文のように刑を定める。

2018年3月15日木曜日

給与未払いに対して罰金が命じられた事例(釜山地方法院2018年1月25日判決)

 本件は、会社の経営者が知人の紹介で入社した者に対し、「会社に仕事のやり方を学びにきただけ」、「会社に利益が出たら一部を支払うという約束をした」として労働者に当たらないので給与を支払わなかったと主張したのに対し、労働者に当たるとして労働基準法違反で200万ウォンの罰金が命じられた事例です。
 僕も韓国の会社で働いていたときに、4ヶ月分の給与が未払いのまま会社が休業してしまったことがありました。就業ビザの問題があったので別の会社に転職するのも容易でなく、そのうち払ってくれることを期待してずるずると給与をもらえないまま働いていました。その後、他の会社に就職することができたので韓国生活を続けることができましたが、未払いの給与は結局もらえないままでした。
 こんなときに弁護士の知り合いがいたら、もっとよい解決方法があったかもしれないと思ったのが、弁護士になろうと思ったきっかけの1つになりました。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2018年3月14日水曜日

伝染病に感染したことについて国の責任を問えるか(ソウル中央地方法院2018年2月9日判決)

 本件は、院内感染でMERS(中東呼吸器症候群)に感染したのは国の対応に過失があったためと国家賠償を求めたのに対し、国の責任を認めたものです。
 韓国では、病院でMERS患者の疑いのある者が見つかった場合、疾病管理本部という国の機関が調査をするようになっています。本件は、MERS患者の疑いがあるという申告があったにもかかわらず訪問国がバーレーン(当時、MERS発生国家とされていなかった)であったという理由でMERS患者ではないとし、その後、MERS患者であると分かった後も接触者の調査が適切に行われず、同じ病棟にいた入院患者が転院し、転院先で原告にMERSを感染させることになりました。
 伝染病の対策が国の責務であったとしても、単に伝染病に感染したという結果のみで国の責任が認められるわけではありません。国の対策に落ち度があったということを原告が証明しなければなりませんが、一般的にはマニュアルに決められたとおりにやってさえいれば国の責任が認められることはまずありません。
 しかし、本件はマニュアルに決められたとおりにやっておらず、マニュアルどおりにやっていれば感染を防げたとして国の責任が認められました。
 以下は、判決の一部抜粋です。
 被告は、旧感染病の予防及び管理に関する法律(以下「旧感染病予防法」」という)第4条により感染病の予防及び防疫対策、感染病患者らの診療及び保護、感染病に関する情報の収集、分析及び提供、感染病に関する調査、研究などの事業を行う義務があり、その義務を履行するために保健福祉部傘下の疾病管理本部を置いて感染病に関する防疫、調査、検疫、試験、研究の業務を管掌するようにした(保健福祉部とその組織機関の職制第30条)。
 被告及びその傘下の疾病管理本部の感染病に関する防疫などに関する行政権限行使は関係法令の規定形式上、その裁量に任せられているといえるので、中東呼吸器症候群(以下「MERS」という)に関する防疫などに関する被告またはその傘下の疾病管理本部の判断を違法と評価するためには関連法令の趣旨と目的に照らしてみて具体的な事情により被告またはその傘下の疾病管理本部がその権限を行使して必要な措置を取らなかったことが顕著に不合理であると認められたり、経験則や論理則上、全く合理性を肯定することができない程度に達していると認められなければならない。
 甲第4、8号証の各記載に弁論全体の趣旨を加味すると1番患者のMERS検査と関連して下のような事実が認められる。
 1番患者が発病前14日以内にバーレーンを訪れた事実を診療過程で確認したFFソウル病院治療陣は2015年5月18日10時ごろソウル特別市○○区保健所にMERS疑似症患者として申告し、○○区保健所は直ちに疾病管理本部にMERS疑似症患者の発生申告及び診断検査の要請をした。しかし、疾病管理本部は1番患者が訪問したバーレーンがMERS発生国家でないという理由で検査要請を拒否した。
 FFソウル病院医療陣は○○区保健所から上のような事実を伝え聞いて2015年5月18日14時ごろ、直接疾病管理本部に連絡して再び診断検査を要請した。疾病管理本部は「他の呼吸器ウイルス検査結果が全て陰性と出たら検査を実施する」と応答し、1番患者の訪問地及びラクダなどの接触歴を再確認してからインフルエンザ検査をまず行うように指示した。
 FFソウル病院治療陣は2015年5月19日13時半ごろ疾病管理本部に1番患者に対するインフルエンザ検査結果が陰性であることを通知した。疾病管理本部は同日17時ごろ疫学調査官1名をFFソウル病院に送り2時間程度調査して、同日19時ごろ1番患者の検体が採取され、2015年5月31日6時ごろ1番患者のMERS感染が確診された。
 甲第4乃至6、11、12号証の各記載と弁論全体の趣旨を加味して認められる下のような事情に照らしてみると、疾病管理本部の公務員らが1番患者に対するMERS疑似症患者申告を受けても遅滞なく診断検査と疫学調査をせず、遅延したことは顕著に不合理であると判断される。
 旧感染病予防法第11条第1項、第2項、第13条第1項によると、医師は感染病患者を診断した場合所属医療機関の長に報告しなければならず、所属医療機関の長はMERSのような第4群感染病(上法第2条第5号第モ目)の場合、管轄保険所長に申告するようになっており、管轄保険所長は管轄市長らに、管轄市長らは保健福祉部長官及び市・道知事にそれぞれ報告するようになっている。疾病管理本部が2014年12月24日に改正したMERS予防及び管理指針(第2判、以下「MERS対応指針」という)によると、医療機関は保健所をとおして検体を疾病管理本部に移送して検査を依頼しなければならない。
 一方、旧感染病予防法第11条第5項、同法施行規則第6条第4項による感染病の診断基準及び法定感染病診断、申告基準にはMERS患者申告のための診断基準に「疑似症患者:臨床的、放射線学的、組織・病理学的に肺実質疾患(例えば肺炎又は急性呼吸混乱症候群)がある急性呼吸器感染者であって、ⅰ)発病前14日以内に中東地域に旅行または居住していた者、またはⅱ)原因不明の重症急性呼吸器疾患者を診た医療人、またはⅲ)発病14日以内に症状がある患者または疑似症患者と密接な接触をした者」と規定している。
 旧感染病予防法第18条第1項によると、疾病管理本部は感染病が発生して流行する憂慮があると認められる場合遅滞なく疫学調査をしなければならず、感染病管理事業指針とMERS対応指針によるとMERS疑似症患者が申告される場合遅滞なく管轄保健所の疫学調査班や中央/市・道の疫学調査班を現場に派遣して患者及び保護者を面談する方法などで危険要因を把握して感染経路を推定して接触者及び共同露出者を確認して流行の発生または伝播可能性を確認するようになっている。
 疾病管理本部は1番患者が訪問したバーレーンがMERS発生国家でなかったため疑似症患者に分類しなかったというが、MERS疑似症患者に関する関連規定や疾病管理本部マニュアルは疑似症患者の中東地域訪問来歴があれば申告をするように規定しているのみで訪問来歴該当国家を中東地域のMERS発病国のみに限定していない。また、2015年5月当時に中東地域のうちMERS発病地域として報告された国はサウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタール、ヨルダン、オマーン、クウェート、エジプト、イエメン、レバノン、イランなど10ヶ国でバーレーンはMERS発生国家として知られていた場所ではなかったが、地域的にサウジアラビアと国境を接している隣接国家として生活圏を同じくする可能性が高い国である。
 疾病管理本部は上のような疑似症患者発生申告と関連基準に符合するので即時に○○区保健所に検体を移送するようにして診断検査がなされるように措置し、確診前であっても疫学調査班を派遣して危険要因を把握し、接触者、接触範囲などを確認する注意義務があったが、検査拒絶と遅延によって疑似症患者が申告してから約33時間後に検体を採取し、申告してから約31時間後に2時間程度行われた疫学調査で接触者などもまともに把握できなかった。
 下のような理由で、被告の過失と原告のMERS感染との間の相当因果関係が認められる。
 次のような事情を総合してみると、疫学調査がちゃんと行われていれば、1番患者が入院した期間の8階病棟の入院患者は1番患者の接触者の範囲に含まれてそれによって原告の感染源として推定される16番患者も調査されていた。
 1番患者は病室内のみにいたのではなく、採血、検査などのためにエレベーターを利用して看護士ステーションに行くなど病室外を何度も移動し、これは他の多くの患者らも同じである。疫学調査官は1番患者に対する対面調査や現場調査などをとおしてこれを簡単に知ることができた。
 入院患者の移動拠点はそれぞれの病室なので、1番患者の病室外の接触者を探すのは1番患者の病室がある別紙図面のような8階病棟に入院していた患者らから出発しなければならない。8階病棟の入院患者のうち誰が「1番患者と接触した者」であるかいちいち確認するのは患者らがお互いに顔を記憶していなかったり調査条件などの理由で難しいともいえ、1番患者が16番患者と接触する様子が出てくる防犯カメラの映像などの資料もない。
 しかし、MERS対応指針は「患者と接触した者」以外に「患者の分泌物で汚染された環境と接触した可能性がある者(例:結婚式、葬式、教会、学校での同じグループなど)」を日常的接触者として把握するようにしている。入院患者は一日中病院で生活するようになっており、ほとんど一般人にくらべて免疫力が落ちていて観戦に脆弱な点、特にMERSは免疫機能低下者の感染確率が高く、予後も不良な点、1番患者が外来診療を受けた病院に派遣された疫学調査官らは日常的接触者の範囲を1番患者が来院した前後に一定時間に来院した者らと設定した点などに照らしてみると、8階病棟に入院していた患者らは少なくとも日常的接触者である「1番患者の分泌物で汚染された環境と接触した可能性がある者」として把握し、接触者の範囲に含めることが妥当である。
 2015年5月頃MERSの基礎感染再生産指数(すべての人口が該当疾病に免疫力がないと仮定したとき、感染性がある患者が感染可能期間の間に直接感染させる平均人員数、感染病の伝播力を表す指標)は0.6~0.8に過ぎず、疾病の流行が自然的に収束しうる程度で伝播力が弱く、人の間の密接接触による飛沫観戦が主要感染経路と知られている。しかし、MERSの明白な感染源及び感染経路は明らかにされておらず、ワクチンや抗ウイルス剤が開発されていないので対症的治療をするしかなく、なにより致命率が約40%とかなり高い。疾病管理本部がMERSの特性をすべて考慮して上のようなMERS対応指針を作ったといえる。
 甲第4、8号証の各記載と弁論全体の趣旨によると、疾病管理本部が病院を疫学調査した2015年5月20日と2015年5月21日の8階病棟の入院患者や保護者のうちMERS症状を出した者がいて、そのうち4名は発熱と関連のない病症であった事実が認められる。1番患者の動線によって接触者を把握するための疫学調査官の最小限の誠意がありさえすれば、上の患者らが把握され、8階病棟の入院患者や保護者は接触者として分類されていた。
 原告は、2015年5月30日朝から症状が始まり、MERSの平均潜伏期5日を考慮すると原告は2015年5月25日朝ごろに病院で16番患者から感染したと推定される。
 疾病管理本部が6番患者の確診によって病院の接触者を拡大して2次疫学調査を実施することを決定してから16番患者を把握するまで約2日と13時間の時間がかかった。これを基準にみると、もし1番患者が疑似症患者として申告された2015年5月18日10時ごろに直ちに検体採取及びまともな疫学調査がされていれば遅くとも2015年5月19日までには病院の接触者の範囲が確定され、それから約2日と13時間が過ぎて16番患者が別の病院に入院する前である2015年5月22日の昼までには16番患者が追跡されたので、16番患者と原告の接触が遮断された。
 遅延された1番患者の確診によってはじめて深層疫学調査を実施したとしても病院の接触者に対する調査がまともになされていれば2015年5月20日又は遅くとも2015年5月21日に病院の接触者の範囲が確定され、それから約2日と13時間が過ぎた2015年5月23日又は遅くとも2015年5月24日午前までには16番患者が追跡されたので原告が感染した時期以前に16番患者を隔離治療することができたといえる。

2018年3月8日木曜日

花火事故で業務上過失致傷が認められなかった事例(春川地方法院2018年1月9日判決)

 本件は、花火大会で水上から花火を発射したところ、その一部が観覧席近くまで飛んでいって爆発し、観覧客が怪我をしたという事件で、花火を発射した技術者2名が業務上過失致傷で起訴されたものです。
 検察は、安全距離確保などの義務を果たしていなかったことが過失に当たると主張しましたが、裁判所は、花火の発射場所と観覧席までの距離はある程度確保されていたとし、花火の一部だけが観覧席まで飛んだことから花火自体に不良があった可能性があるとして無罪としました。
 業務によって誰かを怪我させると、当然になんらかの過失(ミス)があったから怪我をさせたのですから、ストレートに業務上過失致傷が成立しそうですが、刑法上の過失はミス(主観的過失)ではなく、義務違反(客観的過失)であるとされています。
 本件も不良品の花火を使用したというミスはあったかもしれませんが、花火が不良がどうかは知る由もなかったので、通常すべきことをしていたので義務違反はなかったと判断したのは妥当だと思われます。
 ただ、被害者にとっては、この刑事裁判の結果によって民事上の損害賠償請求においても花火の主催者側に過失がなかったと判断される可能性が高く、誰からも賠償してもらえないということになってしまいます。こういうときのために保険には入っていた方がいいのかもしれません。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2018年3月6日火曜日

執行猶予期間満了後の再審で懲役刑を罰金刑に変更できるか(大法院2018年2月28日判決)

 姦通罪と傷害罪で懲役1年執行猶予2年の実刑判決を受けた被告人が、姦通罪が違憲と判断されたことをきっかけに再審を請求したところ、姦通罪は無罪となり、傷害罪について懲役刑から罰金刑に変更されました。
 ところが、再審の請求をしたときには、すでに執行猶予期間である2年が過ぎていたので、被告人は刑罰を受けなくてもよくなっているのに、再審を請求したことで罰金を払わなければならなくなったことが、二重処罰禁止の原則や不利益変更禁止の原則に反しているのではないかということが問題になりました。
 裁判所は、執行猶予期間が過ぎたことは刑罰を受けたことと同じとはいえないので被告人に懲役刑と罰金刑の二重処罰をしたことにはならない、罰金刑は懲役刑よりも重くないので不利益変更には当たらないとしました。
 確かに理屈としてはそうなのかもしれませんが、既に執行猶予期間が過ぎている被告人にとっては、再審請求をしなければ何も刑罰を受けなくてもよかったのに、再審請求をしたばかりに罰金を払わなければならなくなったという気持ちになると思います。
 例えば、弁護士は禁固以上の刑に処された場合は資格を失うということがありますし、再犯になると罪が重くなるので、懲役刑が罰金刑に変更されるのは有利な変更です。しかし、資格をもっていなければ関係ないですし、普通に生活していたら再犯で起訴されることはないので、罰金に変更されるのは不利益変更だといいたくなると思います。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2018年3月5日月曜日

警備員の夜間休憩時間は労働時間に該当するか(大法院2017年12月13日判決)

 本件は、マンションの警備員が夜間の休憩時間も労働時間に該当するとして時間外手当を請求した事件で、高等法院では実際に仕事をした時間は労働時間に該当するがそれ以外の時間は休憩時間としたのにたいし、大法院では実際に仕事をしていなかった時間も待機時間として労働時間に該当するとしたものです。
 判決の基礎となる事実関係や法律関係は全く同じであるにもかかわらず、異なる判決が出るというのは裁判官の差なのか、弁護士の説明の仕方が変わったからなのか分かりませんが、弁護士の訴訟行為とは「いかに裁判官を納得させるか」ということに尽きると思います。同じように司法試験に合格し、司法修習を受けているのですから、弁護士の質はある程度保証されてはいるのですが、やはりどの弁護士に依頼するかによって結果に差が出るということはあると思います。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2018年3月2日金曜日

区長の違法行為について3億ウォンの求償が認められた事例(プサン高等法院2018年2月1日判決)

 公務員の違法行為によって損害を被ったとしても、その公務員に対して直接、損害賠償請求をすることはできず、その公務員が所属する国や地方公共団体を相手に損害賠償を請求することになります。だからといって、公務員が何の責任も負わないかというとそうではなく、損害賠償をした国や地方公共団体は公務員に対して求償をすることができます。
 もっとも、国や地方公共団体が積極的に公務員に対して求償をすることはほとんどなく、地方公共団体は住民訴訟をきっかけに公務員に対して求償をすることになります。
 その場合でも、支払った損害賠償の全額を公務員に対して求償できるわけではありません。
 本件は、大型スーパーが進出すると地域の中小規模の商店がつぶれてしまうかもしれないことを考慮し、区長が大型スーパーの建築許可申請を返戻し、受理しないことが違法と判断された後も返戻し続けたことに対し、地方公共団体が損害賠償をしたものです。
 第1審は区長の責任を20%と判断しましたが、本件では区長が職員の意見を無視して独断で返戻処分をしたことを重く見て70%の責任があるとし、3億5000万ウォンの賠償義務を認めました。
 地域のためになるようにすることが行政の役割と思ってやったことなのかもしれませんが、行政には権利利益の調整の役割があるので、一つの権利利益だけにこだわると違法と判断されることになります。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2018年2月21日水曜日

飲酒運転の取り締まりで「焼酎でうがいした」という主張が認められるか(議政府地方法院2018年1月17日判決)

 本件は、血中アルコール濃度が0.129%と酔った状態で車を運転したという理由で運転免許を取り消した処分に対し、原告が歯の治療のために民間療法として焼酎うがいをしていたが、飲酒運転取締まりの直前に焼酎うがいをしていたため呼吸測定器に引っかかったと主張して免許取消処分の取消訴訟を提起したものです。
 焼酎うがいは聞いたことがなかったのですが、アルコールで口の中を消毒するための焼酎を口の中に含むという民間療法のようです。焼酎うがいをしたからアルコールが検出されたというのは、言い訳のようにしか聞こえないのですが、その後、病院で採血して血中アルコール濃度を測ったところ0.01%未満となったので、原告の主張が認められました。
 なお、韓国では飲酒運転の基準は血中アルコール濃度によるので呼吸測定に不満がある場合は採血を求めることができるのに対し、日本では血中アルコール濃度だけでなく呼気中アルコール濃度によっても飲酒運転になるという違いがあります。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2018年2月13日火曜日

詐害行為取消訴訟が重複した場合の処理(大邱高等法院2018年1月24日判決)

 本件は、債務者から不動産を購入した被告に対し、債権者が詐害行為取消訴訟を提起したものですが、この債権者とは別の債権者が既に同じ不動産の譲渡について詐害行為取消訴訟を提起して確定判決を受けていました。
 日本では、今度の民法改正で詐害行為取消訴訟の判決の効果が他の債権者に及ぶようになりますが、これまでは複数の債権者から詐害行為取消訴訟が提起された場合のルールが明らかになっていませんでした。
 これに対し、韓国では詐害行為取消訴訟の効果は他の債権者に及ぶので、後行の訴訟では先行の訴訟と重なっていない部分のみ認められることになります。本件は、先行の訴訟から土地の価額が増加した場合に、その増加した部分は先行の訴訟とは重なっていないのではないかと問題になりましたが、裁判所は評価額が増加した部分は重なっていない部分に当たらないとしました。
 2つの訴訟が別訴だとすると、不動産の評価額はそれぞれの口頭弁論終結時を基準に評価されるので、後行の訴訟のほうが評価額が高くなれば、増加した部分については先行の訴訟とは重なっていないということができそうです。しかし、取消の対象になっているのは処分行為自体なので、その処分行為の全部について既に取り消されているのであれば、価額の増減は無関係であるということだと思われます。
 以下は、判決の一部です。
 詐害行為取消権の要件を備えた各債権者は固有の権利として債務者の財産処分行為を取り消して、その原状回復を求めることができるものであるが、ある一人の債権者が同一の詐害行為に関して詐害行為取消及び原状回復請求をして勝訴判決を得て、その判決が確定してそれに基づいて財産や価額の回復を終えた場合には、他の債権者の詐害行為取消及び原状回復請求はそれと重複する範囲内で権利保護の利益がなくなるものであり、同一の詐害行為に関して取消訴訟が重複した場合、先行訴訟で確定判決によって処分不動産の鑑定評価による価額返還がなされた以上、後行訴訟で不動産の時価を再び鑑定した結果、上の確定判決で認定した時価より評価額が増加したとしても、その増加した部分を上の確定判決で認定した部分と重複しない部分とみなしてこれについて再び価額賠償を命じることはできない。

 

2018年2月3日土曜日

患者同士のけんかに病院が責任を負うか(釜山地方法院2017年12月12日判決)

 本件は、無断外出して飲酒して戻ってきた患者が、同室の患者に対して「臭い」などと因縁を付けて暴力を振るい死亡させてしまったことに対し、遺族が病院に対して保護義務違反を主張して損害賠償を求めたものです。
 裁判所は、病院には入院患者に対する信義則上の保護義務があるとし、病院が無断外出して飲酒させないようにしなかったこと、最初の暴行時に病室を移動させるなどの措置を取らなかったことなど病院に保護義務違反があるとし、約150万円の損害賠償を認めました。
 日本でも同室の患者による殺人事件について医者の安全配慮義務違反を認めた判決(平成12年10月16日大津地方裁判所判決)がありますが、この事例は加害者に統合失調症による異常行動が予見できていたにもかかわらず適切な措置を取らなかったことを安全配慮義務違反の理由としており、危険回避義務違反の性格が強いので損害賠償請求を認めたと思われます。
 これに対し、本件は病院の保護義務の範囲を広く認め過ぎなのではないかと思われます。病院の保護義務を広く認めることは患者にとっていい面もありますが、病院としては素行の悪い患者を入院させないという判断をすることになり、入院する機会を失う人が出てくることになります。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2018年1月23日火曜日

犯人識別手続に不備があり無罪とされた事例(蔚山地方法院2017年9月21日)

 本件は、被告人は学校の前で児童に対してズボンを下ろしてわいせつ行為を行ったとして逮捕されましたが、目撃証言に信用性がないとして無罪とした事案です。
 目撃者に対して被告人が犯人であるという証言を得るために、警察は4枚の写真を提示してその中から犯人を指し示すように求めましたが、目撃者が犯人の髪型がパーマであったと言っているにもかかわらず、4枚の写真のうち髪型がパーマとはっきり分かるのが被告人の写真だけだったという考えられないことをしていました。
 韓国では法廷の様子をモニタをとおして見ることができるのですが、目撃者の方々はモニタに映った被告人をみて犯人ではないかもしれないと言い出しました。
 わいせつ事件で逮捕、起訴された場合、裁判で無罪になったとしても疑われたという事実だけで社会的な評価に大きな影響を与えます。証拠が足りないから無罪ということになると、証拠があれば有罪になっていたかもしれないと考える人も少なくないからです。
 冤罪で起訴された人の社会的な評価を回復するということについて、今は弁護士ができることはありませんが、弁護士に対する社会的な信用を高めることで「弁護士が無罪といっているのだから、無罪なんだろう」と考えてもらえるようになればと思います。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2018年1月17日水曜日

遺体が間違って火葬されたことに対する損害賠償請求(蔚山地方法院2017年11月16日)

 韓国は今では火葬が増えていますが、ついこないだまで土葬文化でした。本件は、土葬した遺体を掘り返して火葬にし、別の墓地に移葬しようとしたときに、間違って他人の遺体を火葬してしまったという事例です。
 火葬をしている日本では考えられない、韓国ならではの事件だと思いました。
 本件は、損害賠償請求のほかに遺骨が原告の父であることの確認を求める訴訟が提起されています。裁判所は原告が移葬するために遺骨が原告の父であることの確認を求める利益があると判示しましたが、遺骨が原告の父であったとしても直ちに原告が遺骨の所有権を取得するものではなく、埋葬する権利が認められるわけではないので、遺骨が原告の父であるという事実の確認を求めても事案の解決には至らないので確認の利益が認められないのではないかと思いました。
 また、自分の親の遺体を間違って火葬されたことに対する慰謝料が150万円というのは少し安すぎるのではないかと思いました。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2018年1月16日火曜日

弁護士試験管理委員会の会議録の提出義務について(大法院2017年12月28日決定)

 本件は、弁護士試験に不合格した原告が不合格処分の取り消しを求めた訴訟の中で、弁護士試験管理委員会の会議録について文書提出命令を申請したのに対し、裁判所が会議録の一部について文書提出を命じたものです。
 行政に対して情報公開をした場合は文書の全部を公開しなければなりませんが、裁判の文書提出命令は書証として利用するために文書の提出を求めるものなので、裁判所は必要な部分だけを提出するように求めることができます。
 判決の内容自体は重要なものではないのですが、弁護士試験の不合格処分の取り消しを求めるために裁判をする時間があるなら、その時間に勉強すればいいのにと思った次第です。裁判をすることは実地訓練になるから、それはそれでいいのかもしれません。
 以下は、判決を翻訳したものです。

2018年1月12日金曜日

上場例外品目の指定が行政処分に該当するか(ソウル行政法院2017年12月8日判決)

 本件は、農水産物卸売市場の開設者が、仲買人が卸売市場法人を通さずに取引ができる上場例外品目として輸入ニンジンを指定したのに対し、卸売市場法人がその指定を行政処分として取消訴訟を提起したものです。
 仲買人がある品目を卸売市場法人を通さずに取引しようとするときは、その品目について許可を得なければなりませんが、それぞれの仲買人に対してどの品目を許可するかという手続を取るのが大変なので、品目を一括で指定して、その品目については当然に許可をするという制度になっていることから、一括で指定する行為も行政処分に当たるとしました。
 また、上場例外品目の許可を得るのは仲買人であり、卸売市場法人は許可の相手方ではありませんが、上場例外品目に指定されると卸売市場法人を通さずに取引が可能であり、手数料を得ることができなくなるので、利害関係人であるとして原告適格を認めました。
 日本で個別の処分ではなく、一括で指定した行為を行政処分と認めたものは、2項道路の一括指定を行政処分と認めた判例(最判2002年1月17日〕がありますが、これは処分の不存在の確認を求めたもので、一括指定の全部を取り消そうとしたものではなく、一括で指定した処分の中に自分の土地が含まれていないことの確認をしようとしたもので、本件とは事案をことにしています。
 最高裁の判例によれば、一括指定は個別の処分の集合的なものと理解することができるので、本件もそれぞれの仲買人に対する許可の集合的なものとし、それぞれの許可に対して取消訴訟を行うのと同じように一括指定に対して取消訴訟を行うことができると解釈したと思われます。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2018年1月5日金曜日

行政訴訟で訴訟詐欺が成立するか(昌原地方法院2017年11月23日判決)

 本件は、課徴金の賦課処分に対して取消訴訟を提起したが、そのときに偽造した文書を裁判所に提出した行為が訴訟詐欺未遂になるとして起訴されたものです。
 裁判所は、詐欺に該当するかどうかを判断せず、行政訴訟では訴訟詐欺は成立しないとして訴訟詐欺未遂は無罪としました。
 行政が詐欺の対象になるかどうかでいえば、生活保護の不正受給について悪質なものは詐欺罪で有罪になっているので、行政から金銭を詐取する行為も詐欺に当たります。そうすると、行政訴訟でも訴訟詐欺が成立する余地があると思われます。
 なお、本件では判決の中で日本の判例は学説にも言及しています。
 以下は、判決の一部です。

2018年1月3日水曜日

分割後に分割会社に発生した債務について承継会社が連帯責任を負うか(大法院2016年7月22日判決)

 日本では会社に関しては会社法で規定していますが、韓国はまだ商法の中で規定しています。会社を分割する場合、新しくできる会社を承継会社、既存の会社を分割会社といいますが、分割会社の債権者を保護するために、原則として分割前に分割会社に発生していた債務については承継会社も連帯責任を負うように規定されています。
 本件は、条文の文言を広く解釈し、分割後に発生した債務であっても、分割前に債務の法律関係の基礎が発生していれば分割前に発生していた債務に含まれるとしました。
 本件は実質的に分割前に発生していた債務を更新したものなので、分割前に発生した債務と同じであると判断した方がよかったのではとも思いますが、契約の同一性を厳密に解釈し、条文の解釈によって事案の妥当な解決を図ったものと考えられます。
 以下は、判決の一部抜粋です。