2018年5月17日木曜日

医療ミスで入院が長引いた患者に治療費を請求できるか(大法院2018年4月26日判決)

 本件は、医療ミスで患者の入院が長引いたのに対し、病院から患者に対して診療費等の請求がなされたものです。
 本件の特殊な事情としては、この患者は医療ミスがあった病院で再手術をし、そのまま入院し続けているということ、医療ミスについては損害賠償請求訴訟を提起し、判決が確定しますが、その訴訟では当然に予想される入院費用の請求をしていなかったということです。
 原則としては、患者は病院に対して診療費等を支払わなければならないとしても、その費用は病院から損害賠償として支払われるということになり、結果的に相殺されることになるので、診療費等を支払う必要はありません。しかし、もし、損害賠償請求をしておらず、既判力によって損害賠償請求ができないのであれば、患者は病院に診療費等を支払わなければならないでしょう。
 本件では、裁判所は医療ミスを犯した病院が診療を続けるのは損害の填補として当然に行わなければならないものとして、診療を行ったとしても費用を請求することはできないとしました。
 結論としては妥当なのかもしれませんが、この理屈で言うと、患者は医療ミスを犯した病院に入院し続けると無料で診療を受けることができるので、診療費等の費用が発生しないということになり、診療費等相当額の損害を請求することができなくなりそうです。
 以下は、判示の一部抜粋です。

 医師が善良な管理者の注意義務を尽くさなかったせいでかえって患者の身体機能が回復不可能に損傷し、また損傷以降にはその後遺症の治癒またはそれ以上の悪化を防止する程度の治療のみが続けられてきただけであれば、医師の治療行為は診療債務の本旨によるものになりえなかったり、損害填補の一環としてなされたものに過ぎず、病院側としては患者に対してその手術費や治療費の支払いを請求することができない。
 このような法理は患者が特定時点以降に支払うものと予想される今後の治療費を従前の訴訟で十分に請求することができ、実際にこれを請求したとしても、その請求が積極的損害の一部として当然に受け入れられるものであるにもかかわらず、患者が従前の訴訟で該当治療費の請求を漏らした結果、患者がこれを別途の訴訟で請求することが従前の訴訟の確定判決の既判力に抵触し、訴訟法上許されない場合でも患者が従前の訴訟で該当請求を漏らしたことがその請求権を放棄したものと評価することができるなどと特別な事情がない限り、同じように適用される。
 被告1が2次医療訴訟で2013年以降に発生すると予想される治療費などを請求することができ、実際にこれを請求していれば被告1の生存を条件に認容されていたことが明白である。
 それにもかかわらず、被告1が2次医療費訴訟で2013年以降に発生すると予想される治療費などを請求せずに被告1がこれを別途の訴訟で請求することが2次医療訴訟の確定判決の既判力に抵触して訴訟法上許されないとしても、該当請求権など実体法上消滅するものではない。
 被告1が2013年以降に発生した治療費を原告から実際に弁済されたり、被告1が該当請求権を放棄したなどの事情がない本件で、原告が被告1を治療することは依然として原告が所属する医療チームの過失によって被告1に発生した損害を填補することに過ぎないというのが妥当なので、原告は被告らに対して2013年以降に発生した診療費などの支払いを請求することができない。
 それにもかかわらず、原審はこれと異なり、原告が被告1に対して賠償しなければならない積極的な損害は2次医療訴訟で2012年6月14日まで計算された治療費などと2037年9月28日まで定期的に支払われる介護費などが確定しているので、すべて填補されたといわなければならないという理由で、原告が本件で求めている診療費は原告の被告1に対する不法行為によって損害の填補に該当しないと判断したが、このような原審の判決には少額事件審判法第3条第2号で定める「大法院の判例に相反する判断」をした過ちがある。

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