2017年11月30日木曜日

無免許でフォークリフトを運転して転倒して怪我した場合、会社に損害賠償を請求できるか(蔚山地方法院2017年6月29日判決)

 従業員がフォークリフトに乗って下り坂を後ろ向きに下っていたところ、バランスを崩して転倒し怪我をしたので、使用者責任を請求したものです。この従業員はフォークリフトの運転免許をもっておらず、会社も日常的に従業員にフォークリフトを無免許で運転させていたようです。
 会社の仕事中の怪我なので労災が認められるのは当然ですが、自分の運転が下手で勝手に転倒しただけなので使用者責任は認められないのではないかと思いました。しかし、判決は使用者の安全配慮義務として従業員が無免許でフォークリフトを運転するような危険な作業をしないようにしなければならなかったが、その義務を果たさなかったので損害賠償責任があるとしました。
 日本でも、無免許で運転していたフォークリフト同士が衝突して運転者が怪我したのに対して会社の安全配慮義務違反を認めた事例(大阪地裁2011年3月28日判決)がありますが、これは無免許で運転していた従業員から怪我をさせられたとみることができ、本件とは事実関係がかなり異なっているように思えます。
 本件は、従業員が怪我をしないように十分な教育を行っていない者にはフォークリフトを運転させてはならず、その義務を怠ったために怪我をした場合には、安全配慮義務違反で損害賠償責任を負うという法的構成だと思われます。しかし、免許を持っていない者を運転させて自損事故を起こした場合に会社が損害賠償責任を負うというのはいいとして、免許を持っている者が自損事故を起こした場合は損害賠償責任を負わないという結論になりそうで、いまいち腑に落ちません。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2017年11月29日水曜日

寡占株主に該当するとして第二次納税義務が認められた事例(大邱高等法院2017年9月29日判決)

 韓国では公平性の観点から株式会社の発行株式の過半数を所有するものであって、経営者またはその親族に該当する者を第二次納税義務者としています。日本でも同族会社の株主を第二次納税義務者としていること類似しています。
 株式会社は資本と経営を分離することに特徴があり、株主は出資義務以外に会社の債務につき責任を負わないことが原則です。しかし、株式会社のほとんどは経営者が株式を所有していることから特定の株主に第二次納税義務を負わせることは相当であるといえます。
 本件は、発行株式のうち経営者とその妻、未成年者の子2人に20%ずつ所有させ、それぞれは過半数を所有していませんが、経営者と親族で株式の過半数を所有しているものとして経営者の妻を第二次納税義務者としました。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2017年11月28日火曜日

周辺住民の反対だけで動物墓地施設の開発を不許可にできるか(水原地方法院2017年9月7日)

 動物墓地施設の開発に対して、近隣の体育館の利用者と周辺住民が反対していたことを理由に開発申請を不許可としたのに対し、裁判所が周辺住民が反対しているという理由だけでは不許可にすることはできないとしたものです。
 動物墓地施設は所謂嫌悪施設であり、そのような施設が近くにできることを多くの人が嫌がります。行政としては住民のために開発を許可すべきでないと考えたのかもしれませんが、施設を作ろうとする者にも施設を作る権利があるので、法律に定めがなければ施設を作れないように開発申請を不許可にすることはできません。
 行政の仕事は住民の福祉を増大させることだけではなく、権利と権利の調整もまた行政の仕事であると考えられます。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2017年11月24日金曜日

インターネットバンキングで預金解除できることを説明する義務があるか(大法院2017年9月12日判決)

 他人がインターネットバンキングから勝手に預金契約を解除したので、インターネットバンキングで預金契約の解除ができることについて説明されていないとして預金契約の解除は無効であると主張した事件です。
 韓国では約款にかかれていることであっても重要な内容は字を大きく書いたり、アンダーラインを引くなど相手が分かるようにしなければその内容を主張することができないようになっています。一方、日本では今回の民法改正によって定型約款が契約の内容になることが定められましたが、約款の内容をどの程度示したら約款の内容に合意したかどうかまでははっきりしていません。
 本件は、インターネットバンキングで預金契約の解除ができるようになったとしても顧客に不利益がないのだから約款の重要な内容に当たらないとしましたが、最高裁2003年4月8日判例で「銀行において、預金者による暗証番号等の管理に遺漏がないようにさせるために当該機械払の方法により預金の払い戻しが受けられる旨を預金者に明示す」べきと判断されたように、預金契約の解除は金融取引情報の管理に直結する重要な内容であると考えられるのではないかと思います。
 もっとも、本件で原告を保護するためには、預金契約の解除を無効とするだけでなく、債権の準占有者への弁済に過失があったとして弁済を無効としたり、相当額を補償するという方法があるので、預金契約の解除の無効というアクロバティックな結論は出しにくかったのではないかとも思われます。
 なお、日本ではインターネットバンキングの不正利用被害については、法令の規定がないので、全国銀行協会の申し合わせにもとづいて各銀行の判断により補償が行われています。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2017年11月22日水曜日

オレオレ詐欺の「出し子」に詐欺の故意が認められず無罪とされた事例(大邱地方法院2017年10月26日)

 最近の特殊詐欺は分業化され、所謂「出し子」のような末端組織は言われたとおりにお金を引き出すだけであり、犯罪の片棒を担いているという意識がないことがあります。
 本件は、検察官は特殊詐欺の手口はよく知られており「もしかしたら特殊詐欺の片棒を担がされているのかもしれない」という疑いがあったのであれば、詐欺ほう助罪の故意があるとして起訴しましたが、裁判官は「身元を隠そうとしていないのは自分が犯罪を行っているという意識がないから」とし、無罪としました。
 裁判官は「出し子」もお金が必要な状況を利用されて道具にされた被害者なので処罰をすべきでないという意識があったのかもしれませんが、あまり深く考えない人ほど犯罪の意識がないと判断され、犯罪の故意が認められなくなるという結論には疑問があります。
 以下は、判決文の一部抜粋です。

2017年11月21日火曜日

源泉徴収の差額を社員に請求できないとした事例(蔚山地方法院2017年10月26日)

 原告会社が事業所得として源泉徴収していた販売手当について、税務署から給与所得として源泉徴収するように指摘されたことから、その差額を職員に請求したところ、事業所得として源泉徴収するという約定があるのでその差額を請求できないとした裁判例です。
 源泉徴収すべき金額が間違っていたとしても確定申告で正しく納税すればいいように思えますが、法律で定められた金額を源泉納税義務者が納税するように決められているので、納税義務者がその差額を納税するのではなく、源泉納税義務者である会社が差額を納税しなければなりません。その差額分については、源泉納税義務者が納税義務者に対して請求するのが通常の流れです。
 本件は、事業所得税の分を源泉徴収するという契約があるので、それを超える分を請求できないとしましたが、そうすると差額分について納税義務者には所得が発生することになります。裁判は請求が認められるかどうかだけ判断すればいいのかもしれませんが、その所得は何なのかという問題が残ることになり、座りの良くない結論と感じました。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2017年11月20日月曜日

家庭暴力処罰法の不処分決定と一事不再理(大法院2017年8月23日判決)

 韓国ではDVが発生した場合に家庭裁判所がDV加害者に対して「DV被害者を保護する処分」をすることができ、これによりDV加害者はDV被害者に接近することができなくなります。ここでDV加害者が反省しているとして「保護処分をしない決定」をした場合、DV行為についても刑事処分をすることができなくなるかが問題となりました。
 大法院は「保護処分をしない決定」があったからといってDV行為について刑事処分ができなくなるわけではなく、二重処罰の原則や一事不再理の原則に反するものではないとしました。
 日本でも少年事件の審判不開始決定は既判力がなく一事不再理の効力は認められないとした最高裁昭和40年4月28日判決がありますが、この判決と本件判決に似たような書きっぷりがあり興味深いです。
 以下は、本件判決の一部抜粋です。興味のある方は読んでみてください。

2017年11月17日金曜日

文言侵害と自由技術の抗弁(大法院2017年11月14日判決)

 この判決は、特許侵害訴訟において被告製品ないし被告方法が特許発明の技術的範囲に属する場合であっても、当該製品ないし方法が自由技術である場合には特許侵害に当たらないと判断することができるとしたものです。
 特許侵害訴訟においては、特許発明が無効かどうかは争うことが原則としてできず、日本では文言侵害に当たる場合には自由技術の抗弁は認められないようです。今回の大法院で文言侵害の場合でも自由技術の抗弁が認められたので、日本と韓国で特許侵害訴訟の争い方に違いが出ることになるのでしょう。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2017年11月16日木曜日

宗教行為と詐欺罪(大法院2017年11月9日判決)

 家族の病気を治すためには祈祷をする必要があるとして1億ウォンの祈祷費を受け取った行為が詐欺罪に該当するとした判例です。
 日本では、祈祷師が効果がないことを知りながら祈祷料を交付させた行為が詐欺罪にあたるとした判例(最高裁1956年11月20日判決)や、宗教的行為の成果が客観的に証明できないからといって勧誘行為が違法であるとはいえないが、相手方の窮迫、軽率などに乗じて不安、恐怖心をあおるなど不相当な方法でなされて相手方の正常な判断が妨げられた状態で著しく過大な献金がなされた場合は不法行為に該当するとした裁判例(神戸地裁1995年7月25日判決)などがありますが、宗教と詐欺の限界を判断するのはなかなか困難なところがあると思います。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2017年11月15日水曜日

法律上履行が不可能な契約の効力(大法院2017年10月12日判決)

 法令で土地分割が制限されている土地を買ったが所有権移転登記がされなかったため支払い済み土地代金の返還を求めたものに対し、裁判所は契約が原始的不能であり無効であるとして不当利得返還請求を認めたものです。
 売買契約の本質は所有権の移転ですが、土地の売買は移転登記をして対抗要件を備えるところまでが契約の主な内容になっていると思われます。そうすると、観念的には所有権を移転することができても移転登記ができないのであれば、契約の一部が債務不履行なのではなく、契約そのものが履行不能であり無効という法的構成になると考えます。
 日本では、契約の原始的不能については今回の民法改正で条文化され、原始的不能であっても契約は無効とならず、債務不履行による損害賠償も可能になりました。代金の支払いを求められたときは契約解除をしていなければ拒否できないのですが、韓国との取引で韓国法が適用される場合は契約解除をしていなくても代金の支払いが拒否できるという違いが生じることになると思います。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2017年11月14日火曜日

警察官の到着が遅れて殺害された場合の遺族補償金と国家賠償金の関係(大法院2017年11月9日)

 通報があったにもかかわらず警察官が別の事件と勘違いして到着が遅れたため、被害者が殺害されてしまったという事件で、遺族の方は遺族補償金を申請した後、国家賠償を請求しましたが、遺族補償金を控除した額を賠償額として認めたものです。
 被害者の死亡に警察官の行為が寄与していた場合、加害者と国または地方自治体団体が共同不法行為として不真正連帯責任を負うことになり、遺族補償金の支給は国家賠償金の一部を弁済したものという法律構成になるのでしょう。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2017年11月13日月曜日

「現代○○」という商標は現代グループの商標を侵害するか(特許法院2017年11月2日判決)

 本件は、葬儀業者が「現代総合相助」という商標を登録しようとしたところ、現代(ヒュンダイ)グループから登録無効の訴えを起こされたものです。
 韓国の市場の特殊性からか、例えば、現代グループが商標の指定商品、指定役務に登録していない業種だからといって、「現代○○」と社名を付けたら現代グループの系列会社と勘違いする人がいるというのは当然なので、指定商品、指定役務に登録していない業種では「現代」という社名を当然につけることができるというわけではないとされています。三菱鉛筆も韓国だったら商標登録ができなかったかもしれません。
 結論としては、現代グループのような大企業は葬儀業に進出することはあり得ないので、葬儀業が「現代○○」という社名を付けても現代グループの系列会社と勘違いされることはないので、商標登録は有効であると判断しました。
 以下は、判例の要旨です。

2017年11月10日金曜日

社長が自分の会社を騙すことができるか(大法院2017年8月29日判決)

 この事件は、法人の代表者が研究員に人件費を支払うように装って法人から金銭を引き出したことに対し、検察は法人を欺罔したとして詐欺罪で起訴したところ、裁判所は法人を欺罔するとは法人の代表者をだますことであり、法人の代表者本人が法人の代表者をだますことはできないので詐欺罪は成立しないとしたものです。
 当然といえば当然の結論ですが、では、本来研究員に支払うべきお金を自分のものにしてしまった行為はどのような罪になるのでしょうか。
 本件では、研究員が支払われたお金をそのまま被告人に渡すように約束させられていたようで、一旦は研究員にお金が支払われているので横領罪の成立は難しそうです。
 ただ、この人件費は産学協力団からの補助金なので、今後、法人が産学協力団に補助金を返還をしなければならなくなるとすると補助金相当額の損害が法人に発生するので、背任罪が成立するのかなと思いました。
 以下は、詐欺罪が成立しないとする部分の要約です。

2017年11月9日木曜日

軍人の死亡区分通報の行政処分性(大法院2017年8月24日判決)

 この事件は、1971年に軍隊に入隊した息子が上司のいじめによって自殺したのですが、2014年に法令が改正されて自殺が殉職として認められるようになったことから、40年ぶりに息子の自殺を殉職として認めてもらえるように訴えたものです。
 殉職と認められた場合、死亡補償金が支払われたり、国立墓地に埋葬してもらえたりということがあるので、審査委員会に殉職と判断してもらうことは意味があります。
 裁判所は死亡補償金の支給や国立墓地の埋葬の決定は、審査委員会の判断と関係なく行われるので、審査委員会に判断のやり直しを求めることはできないとしました。
 確かに審査委員会が殉職と判断しなくてもそれぞれの管轄行政庁が死亡補償金の支払いを決定したり、国立墓地の埋葬を決定することはできるのかもしれませんが、事実上、審査委員会が殉職と判断しなければそのような決定はしないのであるならば、審査委員会の判断のやり直しを求めることを認めるべきだと思います。
 日本でも行政のどのような行為が行政訴訟の対象になるかは未だに固まっていないようですが、個人的には「行政の意思決定の内容」が取消訴訟や義務付け訴訟の対象になると考えた方が分かりやすいのではないかと思います。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2017年11月8日水曜日

選挙権のない者の名前を勝手に使うことは犯罪になるか(大法院2017年8月23日判決)

 予備選挙において選挙権のない者の名義で勝手に投票した被告人に対して検察が投票しない自由を侵害したとして起訴したところ、投票しない自由が侵害されるのは選挙人に限られるとして、選挙の自由妨害罪が成立しないとした判例です。

 公職選挙法第237条第5項第2号は予備選挙と関連して「予備選挙運動または交通を妨害したり、偽計、詐術その他不正な方法をもって予備選挙の自由を妨害した者」に対して5年以下の懲役または1千万ウォン以下の罰金に処すると規定している。ここで「偽計、詐術その他不正な方法をもって予備選挙の自由を妨害」する行為は予備選挙運動または交通を妨害する行為に準ずるもの、すなわち予備選挙運動や投票に関する行為それ自体を直接妨害する行為をいい、「予備選挙の自由」は公職選挙候補者の選出のための予備選挙の「投票の自由」と予備選挙立候補の自由を含めた「予備選挙運動の自由」をいう。一方、予備選挙の自由のうち「投票の自由」は選挙人がその意思に従って候補者に投票をしたりしなかったりする自由をいう。したがって、予備選挙と関連して選挙権がなく選挙人といえない者を相手のその投票に関する行為を妨害したとしても特別な事情がない限り選挙人に対して投票の自由が侵害される結果が発生することはありえないので、上の規定で定める予備選挙の自由を妨害する行為に該当するとはいえない。

2017年11月7日火曜日

親は子の留学費用を支払う義務がないとした判例(大法院2017年8月25日決定)

 アメリカに留学している成年の子が扶養義務者である父母に対して留学費用の支払いを求めた事件です。留学費用を支払えと親を訴えるのもどうかと思いますが、大法院は以下のように判断して子の請求を認めませんでした。
 民法第826条第1項に規定する未成年の子の養育、教育などを含んだ夫婦間の相互扶養義務は婚姻関係の本質的な義務であって、扶養される者の生活を扶養義務者の生活と同じ程度の保障して夫婦共同生活の維持を可能にすることを内容とする第1次の扶養義務であり、一方、父母が成年の子に対して直系血族として民法第974条第1号、第975条によって負担する扶養義務は扶養義務者が自分の社会的地位に相応する生活をしながら生活に余裕があることを前提にして扶養される者が自力または勤労によって生活を維持できない場合に限ってその生活を支援することを内容とする第2次扶養義務である。したがって、成年の子は要扶養状態、すなわち客観的にみて生活費の需要が自分の自力または勤労によって充当することができない困窮した状態である場合に限って、父母を相手にその父母が扶養できる限度内で生活扶助として生活必要費に該当する扶養料を請求できるだけである。

2017年11月6日月曜日

わいせつ性の新しい判断基準(大法院2017年10月26日判決)

 本件はわいせつ性の判断について大法院が新しい判断基準を示したものです。表現物の中に性器が含まれている場合に表現物全体からわいせつ性を判断するという基準は以前からありましたが、本件は表現物が性器それだけであっても学術的、思想的な表現であればわいせつ物に当たらないと判断したものです。
 以下は、判旨の一部抜粋したものです。
 わいせつ物がそれ自体としては何等の文化的、芸術的、思想的、科学的、医学的、教育的価値をもっていないとして、上記のわいせつ性に関する議論の特殊な性格のため、それに関する議論の形成、発展のために文化的、芸術的、思想的、科学的、医学的、教育的な表現などと結合される場合がある。このような場合、わいせつ表現の害悪がこれと結合された上のような表現などを通して相当な方法によって解消されたり、多様な意見と思想の競争メカニズムによって解消されうる程度というなどの特別な事情があれば、このような結合表現物によって表現行為は公衆道徳や社会倫理を毀損するものでなく、法秩序全体の精神やその背後にある社会倫理ないし社会通念に照らして容認されうる行為であって、刑法第20条に定められた「社会常識に違背しない行為」に該当する。

2017年11月2日木曜日

顧客の口座から勝手にお金を引き出した行為が業務上背任罪にならないとした判決(大法院2017年8月24日)

 銀行の職員が顧客の口座から勝手にお金を引き出した行為について業務上背任罪は成立しないとした判決です。
 預金は銀行など法律が定める金融機関を受入人とする金銭の消費貸借契約であって、その預金口座に入金された金銭の所有権は金融機関に移転し、預金主はその預金口座を通した預金返還債権を取得するので、金融機関の職員は預金主から預金口座を通した適法な預金返還請求があればこれに応じる義務があるだけで、預金主との間にその財産管理に関する事務を処理する者の地位にあるとは言えない。
 しかしながら原審は、被告人がスタンダードチャータード銀行の職員として被害者らから貸付申請を受けたので顧客である被害者らが貸付金を使用できるように被害者ら名義の預金口座に入金された貸付金を任意に引き出さないようにする義務を負っているなどの判示のような理由を挙げて被告人が被害者らの事務を処理する者に該当すると間違って認定し、その前提で原審で選択的に追加された業務上背任の公訴事実を有罪と判断した。したがって、このような原審の判断には業務上背任罪で定める他人の事務及び損害に関する法理を誤り、判決に影響を及ぼす違法がある。