2018年5月31日木曜日

山で自生しているシイタケを採ると罪になるか(大邱高等法院2018年5月11日判決)

 本件は、被告人が他人が所有する山に自生するシイタケ(890グラム相当)を採って帰ろうとしたことが山林資源法違反に当たるとして30万ウォンの罰金を命じられたことを不服とし、控訴したものです。
 被告には、山林資源法は自生する産物を持って帰ることまで処罰の対象にしていないと主張しましたが、裁判所は人為的に栽培しているか自生しているかにかかわらず他人の山から産物をもってかえることは山林資源法第73条第1項の処罰対象になるとしました。
 他人の山から自生しているキノコなどを持ってかえる行為は森林窃盗といい、日本では森林法第197条で3年以下の懲役または30万円以下の罰金と定められています。これは窃盗罪の一種ですが、山で生えている植物などは持って帰りやすいなどの理由で窃盗罪に比べて軽い刑となっています。
 これに対し、韓国では森林窃盗は5年以下の懲役または5000万ウォン以下の罰金となっており、窃盗罪(6年以下の懲役または1000万ウォン以下の罰金)とあまり変わりがなく、結構重い罪になっています。
 本件では被告人は30万ウォンの罰金が重すぎるとも主張しているようですが、山に入れないようにしている冊を乗り越えてシイタケを取っているという点を裁判所は重く見て、罰金の額を決めたようです。
 以下は、判示の一部抜粋です。

2018年5月29日火曜日

製作物供給契約に基づく代金請求権の消滅時効の起算点(大邱高等法院2018年5月11日判決)

 本件は充電器5000個を製作した会社から代金請求権を譲り受けた原告が、契約の相手方である被告に対して代金の支払いを求めたものです。
 被告は本件契約は売買契約なので売買代金の請求権の消滅時効の起算点は契約時である2014年5月7日であるとし、短期消滅時効である3年が経過しているので代金を支払う義務がないとしました。
 これに対し、裁判所は、製作物供給契約の性質は契約の目的物が代替物であれば売買契約、不代替物であれば請負契約の性質を持つとし、本件契約の目的物は不代替物なので請負契約であり、目的物が完成した2016年1月12日が起算点となるとしました。そして、短期消滅時効が成立する前に訴訟を提起しているので、代金は時効により消滅していないとしました。
 製作物供給契約の性質についてはいろいろな学説がありますが、目的物の瑕疵担保の問題として売買なのか請負なのかが問題になっていたようです。というのも、代金をいつ支払うかついては普通は契約書に書かれているので、代金請求権の消滅時効の起算点が問題になることはないからです。本件は代金の支払い日が決められていなかったことから、売買か請負かによって代金を請求できる時期が変わってくるので、製作物供給契約の性質をどのように考えるかを裁判所が判断しました。
 以下は、判示の一部抜粋です。

2018年5月28日月曜日

私有地を通らせないことが往来妨害罪になるか(仁川地方法院2018年5月10日〕

 本件は私有地を通らせないようにフェンスを設置した行為に対して、往来妨害罪が成立するとして罰金200万ウォンを命じたものです。
 これに対し、弁護人はフェンスを立てた土地は被告人が所有する私有地であり、他に通る道があるのだから往来妨害罪は成立しないと主張しましたが、問題となった土地が明日アルトで舗装された道路であり、長い間周辺の住民が道路として使用していたことを根拠として往来妨害罪の成立を認めました。
 私有地なのに通ると便利だからという理由で近所の人が勝手に通っているということは珍しいことではなく、そのような場合でも通行量が少なければ所有者もとやかく言わないのですが、開発などが進んで住人が増えて通行量が多くなると私有地だからという理由で通行止めにし、近所の人とトラブルになることがあります。
 原則としては土地の所有者は所有権に基づいて勝手に通行できないようにすることができるので、近所の人が慣習的に道路として使っているというだけでは通行止めができないようにすることはできませんが、本件は道路がアスファルトで舗装されているということで何らかの道路として指定されている可能性があり、そうすると私有地だという理由で通行止めにすることはできないと考えられます。
 以下は、判示の一部抜粋です。
 被告人と弁護人は、被告人が鉄筋構造のフェンスを設置した本件土地が個人私有地で、公道に出入りすることができる他の道路が存在するので、これは「陸路」に該当せず、一般交通妨害罪が成立しないという趣旨の主張をしている。刑法第185条の一般交通妨害罪は一般公衆の交通の安全を保護法益とする犯罪で、ここで「陸路」というのは一般公衆の往来に共用されている場所、すなわち特定人に限らず不特定多数人または車馬が自由に通行できる公共性をもつ場所をいい、陸路と認められる以上その敷地の所有関係や通行権利関係または通行人の多少を問わない。検事が提出した証拠を総合すると、被告人が鉄筋構造物のフェンスを設置した土地はたとえ個人の私有地であるとしてもアスファルトで舗装された道路であって、長い間周辺の住民が通行路として利用してきた事実が認められるところ、そうであれば本件土地は「不特定多数人または車馬が自由に通行できる公共性をもった場所」として刑法第185条の「陸路」に該当するというのが妥当である。

2018年5月23日水曜日

ビザ発給拒否処分の取消を求めることができるか(大法院2018年5月15日判決)

 本件は、原告が配偶者ビザ(F-6)の申請が拒否されたのに対して拒否処分の取消訴訟を提起したところ、そもそも原告に訴訟を提起する資格があるかどうかが問題となりました。
 これについて、原審は申請者である原告には当然に取消訴訟を提起する資格があるとしました。しかし、大法院はビザ発給拒否の取消を求める訴訟は、結局のところ韓国に入国させてほしいという主張であるが、外国人には韓国に入国する自由がないので、韓国の裁判所に韓国に入国することを認めてほしいという訴訟を提起する資格がないとし、訴訟そのものを却下しました。
 外国人に入国を求める権利がないというのはどの国でもそうなのかもしれませんが、外国で仕事をするためにビザを申請していた立場としては、ビザが発給されなかったときに争うこともできずに諦めなければならないというのは、なかなか納得できません。
 また、日本でも外国人を雇用しようとしていた会社が就労ビザの発給を拒否されたことでその取り消しを求めて訴訟を提起したものがありますが(東京地裁2010年7月8日判決)、この裁判では原告適格ではなく処分性が争点となり、ビザの発給拒否処分は行政処分に当たらないとして取消訴訟を却下しています。
 ビザは入国許可証ではなく、入国するための書類の一つにすぎないので、ビザの発給が行政処分に当たらないという理屈は分かりますが、ビザが発給されなければ入国も認められないので、ビザの発給の拒否処分を争えなければ申請者は保護されません。
 しかし、そもそも外国人は入国する権利がないのだから裁判所に入国を認めるように裁判を提起することができず、そうすると行政処分でないビザの発給に処分性を認める意味がないということなのかもしれません。
 以下は、判示の一部抜粋です。

2018年5月18日金曜日

緊急措置第9号の罪が違憲無罪となった場合に旧反公法違反で有罪とできるか(大邱地方法院2018年4月25日判決)

 本件は、緊急措置第9号が違憲無効とされたことから、無罪の再審を求めたのに対し、観念的競合関係にある旧反公法違反の罪で有罪とすることができるかが争われた事件です。
 被告人は、酒に酔った状態で警察官に対して韓国政府を批判し、北朝鮮と統一した方がよいという内容の発言をしたのですが、このことが韓国よりも北朝鮮が優れているという北朝鮮を讃える発言に当たるとして、緊急措置第9号違反で有罪とされていました。
 緊急措置とは大統領に与えられた緊急命令権に基づくもので、非常時において大統領の権限で国民の権利を制限することができるものです。緊急措置第9号自体は1979年に解除されていますが、2013年になって初めて緊急措置第9号が違憲無効であると裁判所で判断されました。
 一方、反公法とは1961年に制定された法律で、1980年に国家保安法に統合されて廃止されましたが、共産主義団体への加入や共産主義に便宜供与する行為を禁止する法律です。被告人の発言は、緊急措置第9号に違反すると同時に旧反共法にも違反する行為なので、緊急措置第9号が違憲無効であっても、旧反共法で有罪となる可能性がありました。
 裁判所は、再審とは公訴事実の有無について審理をするもので、緊急措置第9号の違憲無効が再審事由であるとしても、公訴事実が他の刑法犯に当たるのであれば有罪を認定することができるとしました。しかし、検察が起訴した内容では反共法違反に当たるとは言えないとし、有罪の立証がないとして無罪としました。
 以下は、判示の一部抜粋です。

2018年5月17日木曜日

医療ミスで入院が長引いた患者に治療費を請求できるか(大法院2018年4月26日判決)

 本件は、医療ミスで患者の入院が長引いたのに対し、病院から患者に対して診療費等の請求がなされたものです。
 本件の特殊な事情としては、この患者は医療ミスがあった病院で再手術をし、そのまま入院し続けているということ、医療ミスについては損害賠償請求訴訟を提起し、判決が確定しますが、その訴訟では当然に予想される入院費用の請求をしていなかったということです。
 原則としては、患者は病院に対して診療費等を支払わなければならないとしても、その費用は病院から損害賠償として支払われるということになり、結果的に相殺されることになるので、診療費等を支払う必要はありません。しかし、もし、損害賠償請求をしておらず、既判力によって損害賠償請求ができないのであれば、患者は病院に診療費等を支払わなければならないでしょう。
 本件では、裁判所は医療ミスを犯した病院が診療を続けるのは損害の填補として当然に行わなければならないものとして、診療を行ったとしても費用を請求することはできないとしました。
 結論としては妥当なのかもしれませんが、この理屈で言うと、患者は医療ミスを犯した病院に入院し続けると無料で診療を受けることができるので、診療費等の費用が発生しないということになり、診療費等相当額の損害を請求することができなくなりそうです。
 以下は、判示の一部抜粋です。

2018年5月9日水曜日

有料道路のゲートを不正に通過した事件(仁川地方法院2018年5月1日判決)

 本件は、有料道路のゲートをハイパス(日本のETCカードに該当)を使わずに不正に通過したことが、便宜施設不正利用罪に当たるとして有罪になった事例です。
 日本でも同じですが、機械を誤作動させて財産上の利益を得る行為は、機械は錯誤に陥ることがないという理由で詐欺罪が成立せず、自動販売機から商品を無料で持っていくなど窃盗罪に当たる場合でなければ刑法犯にはなりませんでした。
 人をだますのも機械を誤作動させるのも同じ犯罪であるという観点から、日本では電子計算機使用詐欺、韓国ではコンピュータ等使用詐欺と便宜施設不正利用という罪が刑法に追加されました。
 日本の場合はコンピュータを誤作動させた場合にのみ刑法が適用されるので、例えば、有料道路のゲートを前の車にくっついて通過した場合などはコンピュータを誤作動させたわけではないので電子計算機使用詐欺に当たりません。韓国ではこのような場合も刑法で処罰できるように便宜施設不正利用という罪も創設しました。
 なお、日本では有料道路のゲートを不正に通過して料金を支払わずに有料道路を通過した場合は道路整備特別措置法第24条第3項後段、第59条により30万以下の罰金となります。
 以下は、判示の一部抜粋です。
 誰であっても不正な方法で対価を支払わずに自動販売機、公衆電話その他有料自動設備を利用して財物または財産上の利益を取得してはならない。
 それにもかかわらず、被告人は2016年5月15日ごろ仁川以下不詳地にある被害者韓国道路公社が管理する有料通行区間でハイパス端末機を設置しない状態で乗用車を運転して料金所を通過する方法で900ウォン相当の財産上の利益を取得したことをはじめとして、別紙犯罪一覧表記載のようにその頃から2017年7月6日までの間に803回にわたって上のような方法で通行料を合計908,440ウォン相当を支払わないことによって同額相当の財産上の利益を取得した。

2018年5月8日火曜日

韓国に住所がない者の後見開始が認められた事例(ソウル家庭法院2018年1月17日決定)

 本件は韓国に住所がない外国人(韓国籍を喪失して外国人になったようです)に対して、諸事情を考慮して韓国内に居所があるとして韓国での限定後見(日本の保佐に該当します)の開始を認めたものです。
 普通に生活をしていると住んでいるところが住所になるのですが、定住していない人は住民票に書かれた住所が本人の住所になるというわけではなく、今とりあえず住んでいるところが居所になり、居所が住所とみなされるようになります。懲役刑で刑務所にいる人は刑務所に住んでいるわけではないので、刑務所は居所にすぎないということです。
 本件は、本人が韓国内に住所がなかったのですが、どこか特定はできないが韓国内で生活しているのは間違いないとして韓国内に居所があるとし、韓国の裁判所に国際管轄を認めました。また、準拠法は原則は本人の本国法が適用されるのですが、緊急の必要性があるとして韓国法の適用を認めました。
 なお、日本では「法の適用に関する通則法」第35条第2項第2号により日本で後見開始の審判等をする場合は日本法が適用されるので、諸事情を考慮することなく日本法が適用されることになります。
 後見制度は本人を保護するための制度ですが、本人にとっては自分の権利が制限されるわけですから、できれば後見開始を認めてもらいたくないという思いがあって国際裁判管轄が争われたと思われます。しかし、韓国に国際裁判管轄権がないと主張できる程度に判断能力があるのであれば、後見人を定める必要はないような気もします。
 以下は、判示の一部抜粋です。

2018年5月2日水曜日

子の返還請求が認められなかった事例(大法院2018年4月17日決定)

 本件は、日本で生活していた韓国人女性が夫の暴力に耐えられず子供2人をつれて韓国に帰国したのに対し、日本人の夫がハーグ条約に基づいて子の返還請求をしたのに対し、子供らは暴力を目撃したことで精神的な苦痛を経験していることから、子供らだけを日本に帰した場合に感じる精神的な苦痛を考慮し、子の返還を認めなかったものです。
 離婚した場合に子の取り合いになることは珍しい話ではなく、特に国際結婚が破たんした場合は、それぞれの国に帰ってしまうと子に会えなくなる可能性が高くなるので、自分の手元に置いておきたいという気持ちが強くなります。
 本件は、父親が子供に暴力を振るっていたわけではありませんが、子供が母親が暴力を受けるのを見ていたことも父親の子供に対するDVがあったとして、返還請求を認めなかったということなのかもしれませんが、子の福利を考えるときに過去の問題を重要視してしまうと、離婚の原因を作った側の親は子を取り返すことができなくなる可能性が高くなってしまいます。
 また、韓国だけでなく日本も同じですが、子供は母親が育てた方がよいという認識が今でも強く残っているような気がします。
 以下は、判示の一部抜粋です。