2018年2月3日土曜日

患者同士のけんかに病院が責任を負うか(釜山地方法院2017年12月12日判決)

 本件は、無断外出して飲酒して戻ってきた患者が、同室の患者に対して「臭い」などと因縁を付けて暴力を振るい死亡させてしまったことに対し、遺族が病院に対して保護義務違反を主張して損害賠償を求めたものです。
 裁判所は、病院には入院患者に対する信義則上の保護義務があるとし、病院が無断外出して飲酒させないようにしなかったこと、最初の暴行時に病室を移動させるなどの措置を取らなかったことなど病院に保護義務違反があるとし、約150万円の損害賠償を認めました。
 日本でも同室の患者による殺人事件について医者の安全配慮義務違反を認めた判決(平成12年10月16日大津地方裁判所判決)がありますが、この事例は加害者に統合失調症による異常行動が予見できていたにもかかわらず適切な措置を取らなかったことを安全配慮義務違反の理由としており、危険回避義務違反の性格が強いので損害賠償請求を認めたと思われます。
 これに対し、本件は病院の保護義務の範囲を広く認め過ぎなのではないかと思われます。病院の保護義務を広く認めることは患者にとっていい面もありますが、病院としては素行の悪い患者を入院させないという判断をすることになり、入院する機会を失う人が出てくることになります。
 以下は、判決の一部抜粋です。

 患者が病院に入院して治療を受ける場合において、病院は治療だけではなく患者に対する寝食の提供をはじめとして看護、保護など入院による包括的な債務を負うようになるので、病院は患者の看護、保護などに必要な適切な措置をとる信義則上の保護義務がある。上のような病院の包括的な注意義務に照らしてみるとき、病院は入院患者が無断外出したり飲酒をすることを防止し、入院患者が外出して飲酒をした後に病室に戻ってきて他の患者とけんかするなどの事故が発生した場合、これを制止して病室を隔離するなど追加事故を防止する信義則上の保護義務があるといえる。本件の場合、Hが外出した後、酒を飲んで2015年5月14日0時ごろ本件病院の254号病室に戻ってきて亡人を殴って本件病院の看護師などから制止された事実、Hは同日0時30分ごろ上の254号病室に寝ていた亡人を再び暴行して傷害を加えた事実は先に見たところである。上の認定事実に加え、先の各証拠及び弁論全体の趣旨によって認定される次のような事情、すなわち本件病院の医療陣がHの亡人に対する1次暴行以降にHを他の病室に移動させるなどによって追加事故の防止のための措置をしなかった点、被告は亡人に他の病室に移動することを勧めたが亡人がこれを拒否したと主張するが、もし被告の主張が事実であったとしても当時のHの酔いの程度と1次暴行当時の状況などに照らして被告が亡人に病室移動を勧めた事実のみで亡人に対する保護義務を尽くしたといい難い点などを総合してみると、本件病院の医療陣は亡人に対する保護義務を違反して本件事故によって亡人を死亡に至らせた原因を提供したといえる。

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