2017年10月25日水曜日

多発性硬化症が労災認定された事例(大法院2017年8月29日判決)

 サムスン電子のLCDパネル工場の労働者が多発性硬化症に発症したとして労災を申請したところ、勤労福祉公団が労災を認めなったのに対し、日本の最高裁にあたる大法院は業務との間に相当因果関係があるとして労災を認めました。大法院が労災を認めた判例は以前にもありましたが、今年829日に出た分について相当因果関係を認めた理由を紹介します。
 
1、原告の業務全体のうち有機溶剤を取り扱っていた作業が占める割合は低かったが、43ヶ月毎日この作業を行っていた点から累積された露出の程度が低いとは断定しがたい。また、原告が直接作業したものではないが、作業場全体の構造から隣接した工場から発生する有害化学物質が伝播、拡散されて原告もこれに露出されたとみられる。
 原告の業務と疾病の間の相当因果関係を判断するときは、疫学調査の方式自体に限界があるうえ、事業主などが有害化学物質などに関する情報を公開しなかった点も考慮しなければならない。

2、有害化学物質の測定数値が作業環境露出の許容基準の範囲内にあるとしても、長期間露出された場合には健康上の障害をきたす可能性があるだけでなく、複数の有害化学物質が複合的に露出された場合、相乗作用を起こして疾病発生のリスクが高まる可能性がある。

3、多発性硬化症の直接の発病を触発する要因として、有機溶剤の露出、業務上のストレス、太陽光不足によるビタミンD欠乏などが挙げられるが、このような事情が重なる場合、多発性硬化症の悪化に複合的に寄与する可能性がある。

4、原告は入社前には健康に特別な異常はなく、多発性硬化症と関連する遺伝的素因がなかったにもかかわらず、韓国の平均発病年齢よりかなり若い21歳ごろに発病した。

5、類似する半導体事業場における多発性硬化症の発生率が韓国人全体の平均発病率や原告と類似した年齢帯の平均発病率と比較して格別に高いことは、相当因果関係を認めるのに有利な事情となりうる。

6、韓国産業安全公団の疫学調査評価委員11名のうち5名が原告の多発性硬化症の発病、悪化と業務ストレスとの間の関連性を肯定したが、有害化学物質への露出など作業環境上の有害要素まで考慮していた場合、業務関連性を肯定した委員が増えていた可能性を排除できない。

 多発性硬化症の発病メカニズムはよく分かっていないので、業務が多発性硬化症の原因であると証明することは不可能に近いと思われます。そのため、大法院は労働者を救済するために上の6つの理由を挙げて相当因果関係を認めましたが、これは「21歳で発病するなんて工場で働いていたこと以外に原因が考えられないので、工場が原因でないと証明できなければ相当因果関係を認定する」と事実上、立証責任を転換したものと考えることができます。

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